日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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新エネルギーの地域循環と地域振興-岩手県葛巻町の事例-
*今野 絵奈石原 大地磯野 貴志高柳 長直増井 好男
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p. 20

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抄録

1.はじめに 環境保全をしながら、経済成長を図ることは21世紀における課題である。エネルギーの大量消費という時代は終わり、CO2排出量が少なく、かつ枯渇燃料である石油・石炭の代替エネルギーが必要とされている。近年、着目されつつあるのが新エネルギーである。 本研究では、相対的特性、地域資源の循環利用、地域振興の3つの側面から新エネルギーを考察することを目的とする。研究対象地域として、独自のエネルギー構想を作り、行政と住民のタイアップのもとに新エネルギーの開発に取り組んでいる岩手県葛巻町を事例として考察する。2.新エネルギーの相対的な特性 新エネルギーはバイオマスと自然エネルギーに大別される。バイオマスとは、動植物を原料とするエネルギーであり、また自然エネルギーは太陽光、風力などである。 石油・石炭と比較すると、新エネルギーは再生可能な更新的資源であり、大気中のCO2濃度を変化させないカーボンニュートラル(炭素中立)という良い特性がある。その反面、新エネルギーの設備の導入は高コストであり、エネルギー供給量が少なく、採算が合わないので、実用化が困難である。3.地域資源の地域循環利用という視点からの新エネルギー バイオマスや自然エネルギーは新しく開発されたエネルギー源のように聞こえるが、これらはかつての社会で主要なエネルギー源であった。現在、昔とは異なり都市化が進み、狭い地域内でのエネルギー自給は困難である。その結果、エネルギーを大量消費する都市部では、CO2排出量が高い石油・石炭・原子力に頼らざるをえない状況である。また、エネルギーを広域流動させるとコストもかかり、環境負荷も与える。 新エネルギーの供給源は農山漁村に多く存在している。エネルギー資源を地域内で収集し、地域内の設備で発電し、消費することで、輸送コストが抑えられ、環境負荷を防げる。葛巻町におけるバイオマスペレット工場は、50km圏内から原料を集め、加工品を配送し、小規模な範囲でのエネルギーの地域循環が行われている。4.むらおこし・地域振興という視点からの新エネルギー 従来の地域振興は、地域の特性を活かした特産物販売が主流であった。しかし、農林産物の輸入による競争が進展したことにより、国際競争に打ち勝つことが難しく、条件不利地域である中山間地域では、地域経済が苦境に追い詰められている。そのため、従来の地域振興方策だけではなく、新たな発想が求められている。さらに、地域振興には地域住民の関心・協力が必要不可欠である。 葛巻町では、町民の9割が環境問題・新エネルギーへ関心を示しており、個人的に新エネルギーを活用している人が多い。中山間地域は財政的に設備設置の資金を調達することは難しい。しかし現在、国や県も環境問題への取り組みを推進し、支援している。その結果、国・県や民間会社などからの支援投資が行われている。さらに、葛巻町は特色のある地域として、国内各地から注目され、多数の観光客や視察者が訪れている。新エネルギーによって、葛巻町の地域経済を活性化させる効果も生んでいる。

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