抄録
ルーマニア中央部,カルパチア山地南西部に位置するドナウ川水系チビン川を対象に,牧羊に伴う河川水質の特徴を把握することを目的に2003年と2004年の夏季を中心に調査を実施した。その結果,著しい水質汚染の実態が明らかとなり,現地における水利用との関連を含め考察した。1.流下に伴う河川水質の変化について電気伝導度を指標に検討すると,最上流部の観測地点において最高値が観測されるのに対し,値は下流に進むに従ってしだいに低下することが認められた。この要因は,集落が尾根部に立地する事実と密接な関連があり,未処理の生活廃水・屎尿の影響を受けた最上流部の河川水が流下とともに順次希釈されることを意味する。2.初夏に刈り取られた羊毛を製品化する前段階の処理として,河道内の岩場や渓流水を利用し,羊毛に付着している土壌や羊の屎尿を河川水で直接洗浄することが行われている。結果的に,羊毛の洗浄地点直下における河川水の水質については極端に著しい汚染の実態が観測された。1989年以前における社会主義体制のもとでは,刈り取られた羊毛は洗浄を業とする企業に集荷され,ある程度まとめられて洗浄されていた。これに対し,市場経済が導入された1990年以降は,個人もしくは世帯単位で小規模に羊毛を洗浄することが行われ,汚濁負荷が散在的に発生する現象が生み出されるようになった。生態系への影響を含め,解決すべき課題の一つであると指摘される。3.調査流域における河川水と地下水の水質特性は濃度と組成に基づき明確に分類され,流域の土地利用・水利用との間に高い整合性が認められる。本調査の結果は,人間活動が水文環境に顕著な影響を及ぼす典型的な事例として位置づけられる。