日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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タイ国アンダマン海沿岸平野における津波の流動と地形変化
*海津 正倫タナヴッド チャルチャイブーンラク パタナカノグ
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p. 38

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抄録

はじめに 本報告では,タイ国アンダマン海沿岸において多大な津波被害をこうむったNam Khem平野およびKhao Lak平野について,上陸した津波の挙動を明らかにし,津波の流動と地形および地形変化との関係について検討する.両平野における地形変化を把握するにあたっては,津波発生以前の空中写真とQuick BirdおよびIKONOSによる高解像度の人工衛星画像を利用した.津波の流動方向に関しては,道路沿いに設置された杭や樹木などの倒れた方向や草地や畑地にみられる倒された草本の示す方向などの痕跡を指標として押し波と引き波を区別し,調査地点において最も代表性のあるものを選んでその方向を測定した.Nam Khem平野およびKhao Lak平野における地形と津波の流動 Nam Khem平野およびKhao Lak平野はいずれも東西最大約2〜3 km,南北約12 〜13 kmの沖積低地で,低地の背後には標高10 m前後の台地が分布している.両平野とも低地の地形は浜堤列および堤間低地を主とするが,それぞれの平野にはスズ採鉱にともなう人工改変地が分布する.Nam Khem平野北縁部のPak Ko川河口(Laem Pom海)の入り江に面した地域は,海岸部に集落が建ち並びその背後にスズ採鉱によって掘り込まれた多数の池沼が存在している.  平野部における津波の挙動は基本的には流れの方向の異なる押し波と引き波の組み合わせで説明されるが,個々の地点では低地の微地形の存在がかなり大きく影響している.Nam Khem平野では単純な押し波と引き波からなる津波の挙動とは異なる,地形を強く反映した津波の流動が見られた.とくに,一部の低所では上陸した押し波と廃土の盛土斜面に乗り上げた後の引き波が同方向に流れており,逆の方向性を持つ押し波と引き波の見られる多くの地域とは異なった特徴が見られ,平野北部における津波堆積物の分布に影響を与えていると考えられる.海岸線の変化に関わる地域的特徴 Nam Khem,Khao Lak両平野とも外洋に面した海岸部では,突出部であるHua Krang Nui岬およびPakarang岬の部分で顕著な海岸線の後退が発生しており,これらの部分において津波による侵食作用が卓越する. また,小河川河口部の地形変化に関しては,Nam Khem平野とKhao Lak平野とで若干の違いを見ることができる.前者では主として河口部を閉塞するような傾向を持つものの,河道が大規模に拡大するような顕著な侵食作用は見られない.これに対して,Khao Lak平野では小河川の河口部が著しく広がり,拡大した河道は内陸側に向けてはっきりした楔形の平面型をなしていてNam Khem平野の特徴とは大きく異なっている.また,前者では開口部の海に面した部分で比較的顕著な侵食・堆積が見られるのに対し,後者では外洋からの影響が直接及ぶと思われる河道の部分においてとくに著しい地形変化がみられるということはなく,むしろ,海岸線に平行する外洋からの直接的な営力を受けにくい河道でも著しい侵食が発生している. すなわち,Nam Khem平野の外洋に面した部分の地形変化は主として津波の直撃による破壊作用によって引き起こされ,突出部のほか,外洋に面した小河川河口部などでも顕著な侵食作用が発生したと考えられる. これに対して,Khao Lak平野では,突出部など外洋に面して直接破壊されたと考えられる部分のほか,楔形をなす顕著な河道の拡大がみられる.これに関しては,津波の押し波と引き波の違いを考えることが必要で,押し波の際には外洋からの直接的な波の作用が卓越するのに対し,引き波の際には流れが低所に集まることから,それらが集中する部分で顕著な侵食が発生して楔形の河道の拡大が引き起こされたと考えられる

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