日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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子どもの遊び行動と知覚環境の発達プロセス
_-_ニュータウン地区を事例として_-_
*吉田 和義
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p. 37

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抄録

1.はじめに 子どもは大人と異なる方法で周囲の環境を知覚することが知られる.子どもの知覚環境に関して従来から実証的な研究によりその実態が明らかにされてきた(斎藤1978,岩本1981,寺本1984,泉1993,大西1999).近年これらの研究は「子どもの地理学」として体系化され,研究の視点も多様化しつつある.一方で,子どもを取り巻く社会の大きな変化に伴って,知覚環境の貧困化が指摘されている.現代の子どもは空間的および時間的な制約が多くかつてのように知覚環境を発達させることができない現状が予想される.しかし,現在の子どもの知覚環境に関して,保育園・幼稚園児から中学生に至る発達を検証した研究はなされていない.本研究は,手描き地図の分析を主要な方法として,子どもの遊び行動と知覚環境の関連,場所の意味と知覚環境の関連について考察し,子どもの知覚環境の発達プロセスを明らかにすることを目的とする.2.調査方法 子どもの遊び行動に関して小学校第3学年_から_第6学年までの児童を対象に質問紙法によるアンケート調査を行い、小学校第1学年_から_第6学年の児童,小学校の学区域内にある保育園の年長児,小学校から進学する公立中学校の第1学年の生徒を対象に手描き地図調査を実施した.3.子どもの遊び行動 子どもの遊び行動の特性としては,遊び場は,「公園」の割合が全体で70%以上と高く,これに次いで「家の中」の割合が高い.遊びの内容としては,放課後の過ごし方は,「ボール遊び」「テレビゲームをする」などの割合がいずれの学年でも高い.また,休日の過ごし方では,「買い物に行く」「テレビゲームをする」「本やマンガを読む」などの割合が高い.平日の放課後と比較すると,野外での遊びの割合が低く,このことは,休日は平日より家の中で過ごす傾向が強く,かえって野外での遊びが成り立ちにくい現状を示している.また,習い事に通う子どもの割合は,どの学年でも全体的に高く,80%を超える.1週間当たりの習い事の回数は,学年が上がるに連れて増加し,第6学年になると1週間に4回以上という回答の割合が,40%以上になる.習い事の増加は子どもが自由に遊びに使える時間の減少を意味する.4.手描き地図の分類形態 手描き地図の形態分類については,子どもが描いた地図をルートが形成されていない非ルートマップ,道路を中心に線的に描くルートマップ,さらに,広い空間を面的に描くサーベイマップに区分した.そして,ルートマップとサーベイマップについては,発達段階に応じて1型と2型の下位分類を設けた.全体的な傾向として,保育園年長児,小学校第1学年では,非ルートマップおよびルートマップ1型の割合が高く,年長児ですでにルートマップが形成されていることが分かる.第2学年では,ルートマップの割合が高く,わずかにサーベイマップが見られるようになる.第3・4学年でもルート1型と2型をあわせたルートマップの割合が高く,サーベイマップが約10%現れる.第6学年と中学校第1学年ではサーベイマップの割合が増加する.しかし,サーベイマップの割合は約50%に止まる. 子どもが描いた建物の表現形式は,水平方向から見たとおりに描く「立面的」な描き方と上空から垂直的な視点から描く「位置的な」描き方の2種類に区分される.学年が低いと「立面的」な描き方が支配的で,次第に「位置的」な描き方に移行し,第4学年では40%が,そして中学校第1学年では90%が「位置的」な表現になる.表現形式には男女差があり,特に小学校第6学年と中学校第1学年で女子に「立面的」な描き方が多く見られる.5.結 論 ニュータウン地区における子どもの遊び行動の特色として,遊び空間は近隣の街区公園への依存度が高く,計画されたオープンスペースや遊具スペースが主な遊び場となることが挙げられる.遊び時間は,習い事の増加により学年が高くなるほど制約される傾向にある.知覚環境の発達をみると,第6学年,中学校第1学年でサーベイマップを描く子どもの割合は従来指摘されたものより低く,サーベイマップへの移行は遅くなっている事実が指摘できる.また,第4学年から立面から位置への視点の転換が見られ,これと平行して,第4学年以降相貌的な知覚の傾向が衰退する.野外における遊びの制約,ニュータウンにおける地域の均質性が子どもの知覚環境の発達に影響を与えていると考えられる.

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