日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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ルーマニア,カルパチア山地における羊の過放牧による土地荒廃
*漆原 和子森 和紀白坂 蕃バルテアヌ ダン羽田 麻美
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p. 49

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抄録
1.研究目的ルーマニアにおける,1989年12月の革命後の社会の変化によって,チンドレル山地の羊の垂直移牧による土地荒廃について調査をおこない,この地域の持続的発展のために何をなすべきかをさぐることを研究の目的とした. 2.地域の概要と方法 東西にのびるカルパチア山地の大部分は中生代の堆積岩からなるが,チンドレル山地は先カンブリア時代の結晶片岩からなる.その北斜面に発達する3段の準平原面を利用し,羊の移牧が古くからおこなわれていた.その地域を調査対象とした.ゴルノビタ準平原のJina(約950m_から_1000m)には転倒ます型雨量計No.34-T型を設置し,2003年9月19日から2004年9月5日まで雨量を観測し,640.0mm/年の値を得た.この面において,1年間に土壌侵食をし,荷重が移動した箇所で断面図の実測をおこなった.またラウルセス準平原面への羊の移動路での土壌侵食の観察をおこなった.3.結論1)チンドレル山地の準平原面である.ゴルノビタ(1000m±),ラウル セス(1800m),ボラスク(2000_から_2200m)は,それぞれ結晶片岩の風化物質が30cm±の厚さであるところであり,羊の移牧基地となっている.しかし,準平原面間の急傾斜地の土壌深は10_から_20cmで,現在森林として残されている.2)羊の移牧の基地であるJinaでは,革命期前にくらべて羊の頭数は約10倍になっている.3)準平原面では洗浄した羊毛を乾燥をする場では草が枯れ,羊の移動する路は,急傾斜で薄い土壌が移動しやすく,深刻な土壌侵食が発生している.4)土地荒廃のいちじるしい場は、Poiana Sibiului集落の縁辺部に住むロマの居住地で,面的に最も荒廃地が拡大している.1年間の拡大面積も著しい.洗浄済みの羊毛を草地で乾かすことと,豚の野外での放牧が起因していると考えた.5)2003年9月から2004年9月までの土壌の移動を計測によって明らかにした結果から,以下のことが判明した. _i_)ガリー侵食では,横幅を広げ,ガリー内部での傾斜の変換点を中心に,頭部を谷頭方向へ向けて拡大していくことがわかった._ii_)水飲み場では,家畜の体重に応じた荷重の移動が起こり,基盤が露出する段階まで達した家畜の移動路が増加していた._iii_)土壌侵食地がとりわけ面的に拡大しているのは,ロマ居住区とその周辺である.6)過放牧を決める要因は1年間の測定結果をもとに, _i_)土壌深の薄い,最も硬い母材である結晶片岩が風化物質を生成するのに時間を要し,革命前の10倍に相当する4頭/haの羊によって,土地荒廃を加速している. _ii_)革命後自由に販売できるので,チーズ価格が高くなり,羊の頭数が増加している. _iii_)雨が間欠的に強く降ることが,一旦裸地になった地域での土砂の移動を促進させる. _iv_)土地荒廃が進行しているにも関わらず,自然保護に対する人々の意識が低い. 以上の結果から,土地荒廃を回復させる対策を早急に講ずる時期にきていると考える.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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