日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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1980年代以降の都市の内部構造変動とその要因
従業者密度分布からの考察
*菊池 慶之
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p. 57

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抄録

1.はじめに 都市の内部構造変動の一側面である都心の空洞化は,_丸1_住機能の流失,_丸2_経済的機能の流失,_丸3_昼間人口の流失の順に進む.住機能の流失は,都市の経済発展に伴って都心の空間利用がより高い地代負担力を持った機能に純化される空間分化とも考えられ,必ずしも都心の衰退を意味するわけではない.これに対して経済的機能の流失は,次の段階である昼間人口の減少とも密接に関連し,直接に都心の衰退を惹起するものである.一方で,郊外化は都心の空洞化とは逆に,郊外における常住人口の増加から経済的機能の立地増加へと進み,郊外を新たな都市の顔へと発展させていくものである.このような都市の内部構造変動は,経験的には地方小都市ほど進行が著しく,大都市では依然として都心における経済的機能の集積が大きいと考えられる.そこで,本稿ではそれぞれの都市における,内部構造変動がどの程度進んでいるのかを明らかにするとともに,そのような内部構造変動を促す要因の分析を行うものである.2.研究の手法 従業者密度の分析に利用したデータは,事業所・企業統計調査に関する地域メッシュ統計の基準(3次)地域メッシュデータであり,1981年,1991年,2001年の3ヵ年分を使用した.また,対象地域を決めるため,以下の定義を使用した. UED(都市的経済活動地域)1メッシュ当たり500人以上の従業者数を持つメッシュが縦・横・斜めに連接して,一塊で1万人以上となる地域. AD(都心的従業者集積地区)UED内において1メッシュ当たり4000人以上の従業者数を持つメッシュ. 都心規模 (AD従業者数/UEDメッシュ数)1UEDメッシュあたりのAD従業者数を示し,値が大きいほどその都市における都心の規模が大きく,逆に値が小さければ相対的な都心の規模が小さいことを示す. 分析の対象地域1981年,1991年,2001年のいずれの年においても,独立したUEDを有し,かつUED内にADを持つ地域(182地域).3.結果の要約_丸1_ 都心空洞化と郊外化は,地方中小都市においては1980年代から既にはじまっており,地方大都市・広域中心都市においても1990年代以降からみられるようになりつつある._丸2_ 規模の小さな都市ほど都心空洞化,郊外化が進んでいる._丸3_ 都心の空洞化と都市の成長との間には直接の関係はないと考えられ,むしろ郊外化による都市域の拡大と都市の成長に相関が見出される._丸4_ オフィス従業者比率が高い都市ほど都心規模が大きいことから,都心の機能がオフィス機能に純化されつつあり,オフィス従業者数の伸びが大きい都市においては,郊外化が相対的に抑えられていると考えられる.逆に,商業従業者の伸びは,郊外化を牽引する要因となっている.4.おわりに 本研究では,日本の都市の内部構造変動の全体的な特徴として,都心空洞化と郊外化の傾向が見出せること,都市ごとの差異が都市規模とオフィス従業者比率によることが確認できた.ただし,このような都市内部構造の変動が,それぞれの都市においてどのような差異を生じているのか,また将来的に継続していく変動なのかが明らかにできていない.そこで,今後の課題として,それぞれの都市における内部構造変動の予測可能性を検討していくことにする.

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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