日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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スロバキアにおける地理教育
*大関 泰宏
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p. 68

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抄録

_I_.はじめに 1989年の東欧革命以降,スロバキアは政治,社会,経済のさまざまな面での変容を経験してきた。そうした変革は,教育の内容,組織,経営の面にも及んでおり,資本主義の競争社会のなかでどのように整合させていくかが課題となっている。 この報告は,スロバキアにおける地理教育の現状について,教育システム全体との関連,具体的な地理の授業,および教育内容の接続,の三つの側面からその一端を紹介しようとするものである。_II_.スロバキアの教育システム 今日のスロバキアにおける学校制度の根幹は,3年間の幼稚園,10年間の義務教育,義務教育ではない中等教育,および大学等の高等教育によって構成されている。義務教育の中核を担うのが初等学校(9年制)であり,その前期4年間はほぼすべての児童がここで教育を受ける。5年目からは,グラマースクールを選ぶことができ,最後に1年間のグラマースクールもしくは職業に関する中等学校を経て義務教育を修了する。 民主化や人文主義の教育という改革の成果がある一方で,急速な市場経済化から取り残された側面もみられる。たとえば,教師の給与は月額4万円にすぎず,全産業の平均よりも17%マイナスで,最も低い水準にある。このことが象徴するように教育条件の整備は遅れており,早急な改善が求められている。_III_.教室での地理の授業 スロバキアにおける初等学校の学級当たり平均児童・生徒数は22人(2001年)で,日本の中学校と比べて約10人,小学校とでは約8人少ない。第8学年の地理の授業では,教室内の正面,黒板の左上には国家の紋章が,黒板の中央には国土の地勢図が掲げられていた。授業のスタイルは,学習内容について教師が説明し,教師の質問に対して生徒が黒板の前で答えるという伝統的なものである。 地理の教科書は存在するが,学習指導要領が改訂されてもその内容はすぐには更新されない。実質的に主たる教材の役割を果たしているのが市販のワークブック(Zemepisný Zošit)であり,教育省の検定を経た1種類が全国で使われている。_IV_.地理教育の接続 スロバキアにおける地理に関する教育は,初等学校第3学年から始まるが,最初の2年間は独立した教科としてではなく歴史や国語とともに一つの総合的な教科を構成している。第5学年から独立した教科地理が始まり,その内容の接続に関する特徴は以下の3点にまとめられる。_丸1_ 空間スケールに関して,地球全体から,大陸もしくは世界の諸地域,そして母国であるスロバキアへと続く逆同心円型の構造になっている。_丸2_ 自然地理の分野が重視されており,地質学や天文学,生態学に関連する内容が含まれている。_丸3_ 地誌の学習は,いわゆる静態地誌的で一定の項目に沿う形で行われる。_V_.事例としての人口学習 初等学校5年から9年までのワークブックのうち,「人口(Obyvateľstvo)」を章の見出しに含むのは国土(スロバキア)スケールで系統地理と地誌を学ぶ第8学年だけである。しかし,節のレベルでは五つの学年すべてに人口に関する単元が含まれており,さらに第3学年においても家族や地域の重要なイベントとしての出生と死亡を学習する。 スロバキアでは,コメニウス大学にデモジオグラフィの学科が設置されていることからわかるように,人口地理学の重要性が認知されている。初等・中等教育における人口分野の充実も,地誌を重視するという伝統的なスタイルだけでなく,そうした学会の動向とも関連している。_VI_.今後の課題 この報告は,学習指導要領レベルでのスロバキア地理教育の特色については言及していない。また,地理教師を養成する大学教育の在り方についても今後追究すべき課題である。〔文献〕Ministry of Education of the SR (2002): Educational System in Slovakia. http://www.education.gov.sk/, 38p.

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