ポルトガル人の入植以降、天然草地を利用した牧畜がパンタナールの伝統的な生業であった。しかし、1990年代以降に進展する急速な近代的開発により、パンタナールの環境破壊は深刻化を増している。その原因には、金鉱山の開発と水銀汚染、セラード農業開発と土壌堆積、ボッカの開放による巨大な浸水域の出現、改良牧野の造成に伴う植生破壊と土壌流出、都市発展に伴う産業・生活排水やゴミによる水質汚染、エコツーリズムの発展に伴う環境破壊、外来種の移入による生態系の攪乱などが挙げられる。これらの顕在化する諸課題に対処しうる実効性のある環境保全策を立案するためには、流域主義に立脚した総合的な湿地生態系の環境動態研究や、地域の伝統文化・職能の継承を意図した教育の推進が不可欠である。