日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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コミュニティ再生における「気づき」の視点と地理教育
発展的参与観察をよりどころとして
*深見 聡
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p. 8

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抄録

I.はじめに 本研究では、コミュニティ再生に果たす地理教育の役割のうち、ワークショップに対する参与観察のあり方に焦点をあて、より有効な視点の析出を目的とする。_II_.近代化遺産をあつかうワークショップから 詳細は拙稿(2005)に譲る[本文割愛]。_III_.考察-発展的参与観察と地理教育 このように、参与観察から地理教育の有効性を論じたものは、多くの事例研究が蓄積されている。ところが、参与観察という、一見漠然とした社会調査法であるものの利点や課題との関係についての議論は少ない。とりわけ、学校教育地理の参与観察的な実践者(教師)からみた教科教育法と学習成果についての研究は多いが、生涯学習の要素の強い学校教育外の地理教育については、定性的に確立した手法にもとづき議論されたものは少なく、さらに踏み込んでコミュニティ再生への有用な視点が醸成されていると示唆しつつも現状はそれを充分に発信しきれていない。 参与監察とは地域住民やコミュニティ(地域社会)に対して、_丸1_ある課題の抽出、_丸2_ある課題をいくつか重ねることによる全体像の把握、_丸3_対象となるものの経験や背景をとおして課題を位置づけ、より現実にアプローチする点において有効である。一方で、_丸4_サンプル数が比較的少なくなることによる、標本としての代表性への疑問、_丸5_定型的な方法ではないため、分析の成否が調査者個人の能力や性格に依拠する側面、_丸6_主観をまったく排除することは困難で、不的確な観察や恣意的な推論の介入する余地、_丸7_反復しての検証が困難といった問題点も指摘されている。参与観察の先駆者であるW.E.ホワイトは、この克服のために、参与観察者の役割を現象の観察と報告に限定すれば、データの歪みをいくらかでも防止でき、現地調査のなかで自己のもつ偏見をその都度処理するように努めるべきであると述べている(Whyte,1963[1993])。 よって、生涯学習の要素の強い地理教育、すなわち参加者である地域住民がコミュニティ再生に役立つ「気づき」の視点を獲得する地理教育ワークショップを事例対象とする場合には、参与観察において注目する地域集団は1つに限定し経年的な変化を追跡するのも有効であろう。本研究では、筆者が中心となり設立したNPO法人「かごしま探検の会」が実施したものを取り上げている。筆者は、客観的なデータ収集にもとづく観点から、ファシリテータとして、活動のなかで中心的な案内役にたつことは避け、あくまでも参与者としての立場で参与観察に従事した。一方で、筆者自身は、活動前日までのさまざまな準備には携わっており、活動が意図する点はそれぞれの企画ごとに他のスタッフとの共有を果たしている。ここには、ファシリテータとなるスタッフと、事務的なスタッフとしての筆者との間で、完全な分掌体制が確立しているのが理解できる。また、参加者との関係は、筆者が彼らと接する機会は活動の当日のみに限定されるので、参与者としての一定の距離を保っていることになる。 以上のことから、同一の地域集団のなかで、参与者でありながら実践にも携わることは一見不可能なように考えられがちだが、明確な分掌の約束の下でそれはむしろ有効な社会調査として機能するといえる。集団外部の参与者からは非常に得るのが困難な情報であっても、集団のなかの参与者は、活動の実際と背景を共有しているというリアル感から、その特徴をさらに浮かびあがらせることが可能になるという試みである。この試みは、ホワイトのいうPARよりもさらに事例に肉薄できる調査法といえる。筆者はこれを「発展的参与観察」とよび、地域集団におけるコミュニティ再生の萌芽事例、すなわち地理教育における「気づき」の過程を検証する際のアプローチ手法としてとらえたい。以上の考察から、このような研究での発展的参与観察の妥当性が導きだせる。IV.おわりに 地理教育に含まれるコミュニティ再生へのまなざしは、まずは地域を知ろうという、地域住民が「学び手」と「伝え手」としての出発点に立ち、そこから「気づき」の視点を獲得することで初めて輝きだす。同時にその過程にリアルに迫ることで初めて定性的な事象の推移による効果や課題が把握可能となる。学習指導要領のような一定の「指標」のない「広義」の地理教育の研究においては。発展的参与観察の確立こそがもっとも有効であり、さらに多くの比較研究を重ねていく必要に迫られている。文 献拙稿(2005):近代化遺産とエコミュージアムによるまちづくり.社会教育,708,pp.54-58.W. F. Whyte ([1943]1993):Street Corner Society, 4th ed., Chicago: University of Chicago Press.(=2000, 奥田道大・有里典三訳 『ストリート・コーナー・ソサエティ』.有斐閣.)

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