日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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ソフトウエア産業の日印間国際分業におけるインド人移民技術者の役割
*小林 倫子
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p. 80

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抄録

研究の目的
グローバル化が進む中、企業活動が国境を越えて行われると同時に、国境を越える人の移動も活発になっており、企業活動にも大きな影響を与える要素になっている。近年、IT分野などでの国境を越えた分業において、先進国と発展途上国との間を行き来している移民技術者・経営者が、分業体制を促進し成功させるために重要な役割を果たしているとして、注目されてきている。

本発表で取り上げるソフトウエア産業は、初期投資が少なくてすみ、関連産業の集積もあまり必要としないことから、発展途上国において新規に育成しやすい産業であるといえる。高度なサービスを提供する一方で、労働集約的な工程も含んでおり、コスト面で発展途上国に強みがある。実際、IT分野での人材不足が懸念されている日本では、成長著しいインドや中国のソフトウエア産業への期待が高まっている。インドは、アメリカとの間ですでにソフトウエア・サービスの国際分業体制を構築しているが、今後は中国と並んで、日本のソフトウエア産業のアウトソーシング先としても、存在感を強めていくことが予想される。

一方で、ソフトウエアという財は、消費される国や地域の社会的・文化的文脈が強く反映されて作られる。特に日本のようにカスタムメイドが主流である場合、国外へのアウトソーシングを成功させるためには、日本の顧客と国外の開発現場をつなぐブリッジSEが、納期や品質の管理において重要な役割を果たし、プロジェクトの成否に影響を与えている。本発表では、ソフトウエア産業における日本とインドの国際分業体制が構築されていく中で、インド人の移民技術者が日本でどのような役割を担っているのか、フィールドワークの結果をふまえて明らかにしていきたい。

日本におけるインド人の概況
入管協会『在留外国人統計』によると、インド国籍の外国人登録者数は近年増加傾向にあり、2003年末時点では、1万4000人を越えている。在留資格別では「家族滞在」が約3200人と最多で、ここ数年は毎年200_から_450人ずつ増加してきている。次に「技術」が多く2000人に達している。以上のことから、インド国籍者の近年の増加は、技術者とその家族の来日増加が大きな要因であることが予想される。

インド国籍者の大きな特徴として、ホワイトカラー労働者が占める割合が欧米並みに高い点が注目される。なかでも「技術」の資格保持者の割合が他の国籍と比べて顕著に高くなっている(下表) 。昨今の各種報道で取り上げられているように、この「技術」資格保持者のかなりの部分はソフトウエア産業のSEであると考えられ、日本とインドの間での分業が進んでいることをうかがわせる。

またインド国籍の外国人登録者数は、全体の36.1%が東京都に、60.2%が首都圏(1都3県) に集中している。インド国籍者だけでなく外国人ホワイトカラー労働者は全体として首都圏に集中する傾向があり、さらにソフトウエア企業も首都圏に多く立地している。このことからインド国籍のソフトウエアエンジニアのかなりの部分が首都圏に集まっていると考えられる。

調査の対象と方法
首都圏において、日本法人、インド法人の支社・支店、さらにはインド人経営者による中小ベンチャー企業などで働く、インド人SEを対象にインタビュー調査を行う。

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