日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

「平成の大合併」後の市町村行財政を考えるシンポジウム
趣旨説明
*栗島 英明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 83

詳細
抄録

1.「平成の大合併」の現状と背景1999年4月1日以降,3,232あった市町村数は,2005年7月1日現在で,2,352となった.「市町村の合併の特例に関する法律(合併特例法)」では,2005年3月31日までに合併の申請を行った場合に財政支援等の合併特例を認めており,申請された合併が実施されれば,2006年3月31日には1,822となる1).もっとも,合併の動きはこれで終わりではない.合併特例法は2005年3月31日に失効したが,4月1日には「市町村の合併の特例等に関する法律(新・合併特例法)」が施行された.同法では,合併特例債はなくなったものの,地方交付税交付金の算定の特例(合併算定替)は存続しており,厳しい市町村財政を背景の一つとする合併の動きは今後も継続していくものと考えられる.「平成の大合併」の背景としては,先述の厳しい市町村財政がある.制度上,多くの市町村は自主財源に乏しく,その多くを国からの地方交付税交付金などに頼っている.しかしながら近年,交付税の減額が進められ,市町村に財政的懸念が広がった.また,少子高齢化の進展は,地域の担い手の減少等による地域活力の低下や,高齢化対策等の財政需要の増加をもたらし,財政はますます厳しい局面を迎えることが予想される.これらの要因と合併特例法の期限切れが相まって,合併への流れが一気に加速された.このような背景から,積極的な自主合併というよりは,消極的な合併であるとの指摘もある.一方,市町村合併の積極的な背景としては,地方分権の受け皿作りという面が大きく強調される.地方の抱える課題は多様化しており,国による一元的な管理が必ずしも効率的でなくなったことで,地方に権限・財源を移譲する地方分権が必要とされている.市町村には,それらの移譲に対応可能な財政的・人的資源が必要であり,これを合併によって実現するというの理由である.2.「平成の大合併」後の市町村行財政の課題と展望 このような中,「平成の大合併」の議論においてその主流を占めていたのは,合併自体や過程の是非,合併のメリットとデメリットであった.一方で,「平成の大合併」後の市町村行財政の姿については,あまり目立った議論はなかったと考える.各地での合併をめぐる住民投票や合併協議会の解散,合併特例法の期限切れ間近の駆け込み申請など,合併後の不確実性が高かったことがその理由として挙げられる.しかし,合併特例法が期限切れを迎え,その後の枠組みについて暫定的な姿が見えた今こそ,これからの市町村行財政がどのような課題を抱え,これにどう取り組んでいくかを中心的に議論していくことが必要となる.そして,その必要性は,合併経験の有無にかかわらない. まず,「平成の大合併」の背景となった財政問題がある.合併それ自体は,財政問題を根本的に解決するものではない.市町村人口の減少や高齢化の進展は,さらなる財政逼迫をもたらすであろうし,高齢者福祉における市町村の役割もより重要なものとなる.さらには,合併後の自治の問題がある.領域が広範となることで地域代表性の低下や政策と地域との乖離が議論となるであろう.これに対しては,市町村の下位単位における地域自治の実現や,行政と住民,企業などの協働,いわゆるローカルガバナンスが大きな鍵を握っている.本シンポジウムは,こうした問題意識に立ち,地理学分野における個々の事例研究を土台とした上での領域再編後の具体的な行財政課題について報告するとともに,国・地方・研究者の立場からポスト市町村合併下の行財政について討議することを目的とする.

著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top