日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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ボーリングデータを用いたメコンデルタ完新世の古地理復元
カトルブラを中心として
*桶谷 政一郎春山 成子
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p. 84

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抄録

はじめに
 メコン川は流路長およそ4,000km、流域面積約800,000km2の国際河川である。メコン川デルタの地形発達過程は、ベトナム領内では多くの研究(Lap et. al.(2000))があるものの、内陸側での研究は遅れている。完新世の環境を復元するためには、河口部に位置するベトナム領だけでなく、デルタの上・中流域における堆積過程を明らかにすることが重要となる。
 カンボジア領内のメコンデルタは、政治不安などの理由で地形・地質学上の研究は少ない。しかし、桶谷,春山(2005)は、プノンペン周辺のトンレサップ川氾濫原を中心としたメコンデルタの地形分類図を衛星データ・航空写真を元に作成、GIS化している。田村et.al.(2005)は、プノンペン近郊において30mのオールコアボーリングを行った。その結果、同地点が潮汐の影響下にあったことを明らかにしている。また、本研究地域では、アメリカ内務省の地質調査により作成された、地質柱状図の集成はあるものの詳細は不明であり、その堆積構造は連続的・立体的に明らかにされてはいない。
 そこで、本研究では、前回発表したトンレサップ川周辺に加えて、プノンペンからベトナム国境域までの氾濫原にも広げた地形分類と併せて、表層地形との応答を考慮しながら、対象地域の完新世の古地理の全体像を連続的、立体的に復元しようとするものである。

研究手法
 カンボジア領内において、約750本程の既存ボーリングコアデータを収集し、位置データ、ボーリングコアデータをもとに、完新世の堆積層の層序構造を砂層・泥層に分類し3次元的に復元する。
 使用データとしては、主にカンボジアの地方開発局の所有する、飲料水用井戸の掘削データのデータログシートを用いた。各州毎のログ数はKandal州の150本、Takeo州の150本、Kampong Speu州の50本、Kampong Thom州の108本、Kampong Cham州の86本、そしてPhnom Penh州の約230本である。これらに加え、鉱山エネルギー省の所有する断面図、クボタ建設_(株)_の所有するボーリングコアデータを用いた。
 それらのデータシートの地名、簡便な周辺図をもとに位置を決定し、SRTM-3データもしくは地図よりボーリング地点の高度を割り出す。その後、各データの基盤までの層順にもとづいて、調査対象地域全体の古環境をGIS上で空間的に復元する。

結果
 完新世堆積物の層相を概観すると、ほとんどのコアで、基盤_-_粗砂層_-_砂泥互層という、日本と同様の層順であることが分かった。地域ごとの特性をみると、プノンペンの西方の段丘にあたるKampong Speu州、Kandal州では、堆積層が薄く、10数mほど下で基盤にあたる。また、プノンペン南西のTakeo州では、堆積層は20_から_40m前後であり、メコン本流とは異なり、これら地域では、比較的堆積層は薄いことがわかった。
 その一方、現在のメコン川河道の存在するKandal州においては、プノンペン以南のメコン川沿いでは、60m深においても基盤には到達しない。プノンペンより上流のメコン川沿いでは基盤が40mの深度前後に存在し、地盤の構造がプノンペン周辺で大きく異なることが明らかとなった。
 以上のことからメコン川の流路との関係に着目すると、完新世のメコン川は現在の流路とさほど違わない位置に河道のあったことが推定された。


文 献
Van Lap, N. et al. 2000. Late Holocene depositional environments and coastal evolution of the Mekong River Delta, Southern Vietnam. Jour. Asian Earth Sciences. 18:427-439
田村ほか 2005. カンボジア、プノンペン近郊のメコン川沖積低地におけるボーリングコアの堆積相と放射性炭素年代. 地球惑星科学関連学会2005年合同大会予稿集: Q061-P006

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