日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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日高山脈七ッ沼カールおよびトッタベツ谷における氷河堆積物の堆積構造解析
*澤柿 教伸松岡 直子岩崎 正吾平川 一臣
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p. 105

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抄録
1.はじめに
 日高山脈の七ッ沼カール底直下には,氷成堆積物が厚く分布し,恵庭a降下テフラ(En-a)が確認され,上部は最終氷期トッタベツ亜氷期のアウトウォッシュ堆積物,下部はポロシリ亜氷期のグランドモレーンとされていた(小野・平川,1975)一方,トッタベツ谷においては,ポロシリ亜氷期の氷河底ティルの存在が確認され,その下位の堆積物は融氷河流によるものと解釈された(岩崎ほか,2000b,2002).しかし,これらの融氷河流堆積物の成因や形成時期は明らかにされていない.
 堆積物の層相および堆積構造は,水流や流送物質の移動形態・様式と密接に関わっている.氷河作用が及ぶ範囲において,その堆積物の特徴を観察すれば,堆積物が形成されたときの水流や氷河の融解状況を推定することができる.そこで本研究では,日高山脈の氷成堆積物中に残された堆積構造を詳細に記載して,それらを形成した水流や物質運搬のプロセスについて検討し,氷河末端付近における堆積環境を復元することを目的とする.
2.研究方法
 本研究では,七ッ沼カールおよびトッタベツ谷において,円磨度,淘汰度,粒径などの礫の特徴の記載を含めた露頭スケールの構造を記載するとともに,OH-1Aを用いた地層の剥ぎ取り標本の採取を行った.この手法を用いれば,未固結堆積物でもその粒子配列などの微細堆積構造の観察が可能となる.また室内で剥ぎ取り標本を用いて数mm_から_数cmオーダーで堆積物の層相と堆積構造を記載した.基質部や層理を構成する細粒物質については粒度分析を行った.
3.結果と考察
 七ッ沼カール底直下では,氷成堆積物の全層準にEn-aが混入しているのを確認した.これによって,ポロシリ亜氷期のグランドモレーンとされてきた堆積物の存在は否定され,堆積物はすべてトッタベツ亜氷期に形成されたことが明らかになった.また,堆積物は氷河上へのEn-aの降下,被覆によって氷河の融解が促進され,融氷河流によって形成されたと解釈した. トッタベツ谷の堆積物については,泥やシルトの細粒物と砂とが分級して数層も堆積し,初生堆積構造が保存されており,準同時性の堆積構造である脱水構造や浸食構造を示すことが明らかとなった.このような構造は,融氷河流によって形成された堆積時,もしくは堆積直後の堆積構造を保存していると考えられ,氷河底でのひきずりによって生じたものではない.さらに初生堆積構造の保存は,静水状態が長い間保たれていたことを意味する.したがって,氷河が衰退していく過程で生じた融氷河流が,砂礫や氷塊を流出させ,長時間かけて堆積物を形成し,この堆積物が形成されたときには,アクティブな氷舌端から解放されていたと考えられる.また,停滞氷の融解に伴って堆積物が再移動し,それによって特異な変形構造が生じたと考えられる.堆積構造には砂と細粒物の互層がさまざまな厚さで堆積しており,融氷河流は定常ではなく,細かく変動していたことが推測された.
(引用文献)
小野・平川 1975.ヴュルム氷期における日高山脈周辺の地形形成環境.地理学評論 48:1-26.岩崎ほか 2000b.日高山脈トッタベツ川源流域における第四紀後期の氷河作用とその編年.地理学評論 73A:498-522.
岩崎ほか 2002.日高山脈トッタベツ谷における氷河底変形地層について.地学雑誌 111:519-530.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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