抄録
技術者教育認定の目的とJABEEの役割JABEEは教育プログラムの認定を通じて技術者教育の向上を実現し,その国際的同等性の確保を目指すことを目的としている.認定の対象は教育そのものであり,実施の責任は大学等の高等教育機関が担っている.JABEEは教育と技術者キャリアが車の両輪のように均衡を保って支え合う全体像を描きながら,教育認定を通して高等教育機関における技術者教育の向上を主務とする.技術者教育の質的保証と継続的向上技術者教育の外部認定が必要とされる背景には,わが国の高等教育機関における教育のあり方が厳しく問われていると考えるべきである.これには3種類の問題が考えられる.第一は学生側の問題であり,学生の多様化と学習意欲の低下,自己学習不足,応用力・本質的理解不足,設計能力不足などがある.第二は教育機関側の問題であり,卒業生の質的保証を行うことに対する理解不足と認識の甘さ,技術者教育の不足と工学基礎教育への偏重と座学重視などがある.第三は社会の問題であり,日本社会では技術者は会社に属するエンジニアであって,自立した技術者(プロフェッショナルエンジニア)であるという意識の欠如などがあげられる.JABEE認定基準は,基準1-6と補則としての分野別要件から構成されている. 基準1:学習・教育目標の設定と公開 基準2:学習・教育の量 基準3:教育手段(入学および学生受け入れ方法,教育方法,教育組織) 基準4:教育環境(施設・設備,財源,学生への支援体制) 基準5:学習・教育目標達成度の評価 基準6:教育改善(教育点検システム・継続的改善) 補則:分野別要件JABEE認定基準には,教育の実施主体である学科などの希望により認定をおこなう.学生が自発的自主的に能力開発に励む学習を重視し,技術者に求められる素養,能力と倫理意識を獲得できるように学習・教育の改善に取り組むことなどが共通した基本精神として含まれている.このため,教育の実施主体は独自の学習・教育目標を明らかにし,学生が理解できるように工夫しなくてはならない.そのためには,十分な数の教員が存在し教育支援体制と環境が備わっているだけでなく,FDや教員間のネットワークが機能していること,教員の教育に対する貢献度の評価が実施されていること,すべての科目について公開されたシラバスに従って学生の達成度が公正に評価されていること,さらに,教育の実施主体(プログラム)が掲げる学習・教育目標に対する達成度を総合的に評価するシステムが機能し,学習・教育目標を達成した学生だけに卒業・修了が認められていることが求められる.いずれも,従来のわが国の教育プログラムにはなかったことであり,その必要性は,本来ならばJABEEとは関係なく認識されるべきものである.技術者教育認定の意味するものJABEEによる外部認定システムは,技術者教育の実施主体に強制的な構造改革を迫るものでないが,わが国の技術者教育のパラダイムに大幅なシフトを引き起こすことになる.そのパラダイムシフトの一部は以下のように表現でき,これがJABEEによる技術者教育認定システムの第一の意義となる. TeachingからLearningへ 個人学習からグループ学習あるいは協調的学習へ 暖昧な社会契約から明確な学習目標達成の契約ヘ(カリキュラムの約束より,「卒業生にはこういう能力・知識があります」という社会に対する保証を重んじる方向性) 教育評価の軽視から,教育方法とその評価方法は不可分であり,教育者の責任であるという自覚へ 知識偏重教育から実社会の問題解決,あるいはエンジニアリング課題への積極的な取組へ第二の意義は,2000年4月に一部改正された技術士法にあり,わが国の技術者の社会的地位向上と国際的認知への寄与である.この改正によって,文部科学大臣が指定する認定教育課程の修了者は,技術者に必要な基礎教育を完了したものと見なされ,技術士第一次試験を免除されて直接「修習技術者」として実務修習に入ることができると規定されている.これにより,大学における技術者教育と技術者資格とのリンクが確保されたことになる.