抄録
日本地理学会グランドビジョンと資格制度 日本地理学会理事会は、2003年12月に「日本地理学会グランドビジョン」の具体的検討の実施を決定した。その内容には、地理学の社会的地位向上を目指した資格制度の構築が含まれている。この資格制度は、専門教育→実務訓練→認定試験→継続教育、により構成されている。専門教育は共通する課程の下で大学や研究機関がそれを担い、実務訓練は職場において資格にふさわしい業務に一定期間従事することを要件とする。認定試験合格者には資格が付与され、資格保持者は継続教育による能力の維持と向上、さらに職業倫理に関する研鑽を重ねる。この資格制度は、国際的に共通の考え方に基づくものである。ただし、導入に当たっては、教育プログラムの開発と共通化、実務訓練機関の確保、継続教育の形態や時間重み係数(CPDWF)の設定方法について慎重な議論が求められている。昨年9月、日本地理学会内に設けられた‘地理情報システム技術資格推進委員会’の任務は、このような中に位置付けられる。2.GIS課程と地理学教育1988年、GISの研究と教育を目的として設立されたNCGIA(National Center for Geographic Information and Analysis)は、1990年にGIS指導者向け基礎資料であるNCGIAコアカリキュラム(Core Curriculum in GIS)を開発した。これは日本語にも翻訳され、3編75ユニットで構成されている。その後NCGIAは、改訂版コアカリキュラム(Core Curriculum in GIScience)の編集(5章27節)を1995年より開始するが、完成には至っていない。共通化を目指した初期のGIS課程として、NCGIAコアカリキュラムの果たした役割は大きい。 1994年設立のUCGIS(University Consortium for Geographic Information Science)は、地理情報科学とその技術に関する学部教育の充実、学位認定プログラムの一貫性向上、関連分野の交流促進を目的としたUCGISカリキュラム(Model Undergraduate Curricula for GIS&T)を提唱している。このGIS課程は学生教育用のみならず、広くこの分野に関わる人々を対象とした資料として活用されている。この課程は12の知識分野からなり、ユニット、トピックへと細分される。学生は、それらを希望に応じ選択する。 わが国の事例として、地理情報システム学会は、2004年3月に『GISコアカリキュラムの開発研究!)カリキュラム原案の作成!)』を編集した。NCGIAやUCGISのGIS課程そして英語版GISテキスト14冊もとに、九つからなる最低限の内容項目案を次のように提案している。_丸1_序論_丸2_実世界の概念モデル化と基本概念_丸3_空間データモデル_丸4_空間データ取得_丸5_宇間データ編集_丸6_空間データ分析_丸7_空間データの視覚的伝達_丸8_GISのシステム構築_丸9_GISと社会それぞれの内部を構成する項目については、重要度に応じ二つのレベルを設定している。今後地理情報システム学会は、公表によって得られた意見を反映し、継続した内容更新を予定している。ここに示したGIS課程は、いずれも理学部や教育学部といった具体的な教育環境を意識せずに提案されたものである。運用に当たっては、学部・学科の性格、学年、物理的環境を考慮し、適宜変更を加え教育することを想定している。日本地理学会では、2002年度春季学術大会時に各大学のGIS課程と教育実践報告をテーマとするシンポジウムを開催した。しかし、GIS課程の内容やその共通化について踏み込んだ議論は行っていない。一方、アメリカ合衆国の有力な地理学教室は、印刷地図を教材とした地理的地図学科目をGIS関連科目へ再編成するにあたり、1980年代後半から1990年代前半にかけて、地図学やGIS関連雑誌にて豊富な事例報告と活発な議論を展開させている。GIS技術資格の導入を念頭においた場合、地理学教育で扱えるGIS課程にはどのようなものがあるのだろうか。既存科目のなかで、GIS技術資格の専門教育として採用すべきものはどれなのか。検討すべき課題は多い。当日は、それぞれのGIS課程の内容と問題点、専門教育として採用すべき地理学関連科目と教育内容を中心に報告する。