日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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山形県庄内地域出身者の還流移動
*江崎 雄治山口 泰史松山 薫
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p. 145

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抄録
【_I_ はじめに】
 日本の地方圏においては,引き続く社会減に自然減が加わることにより,さらなる人口減少の加速が懸念されている.そのような中,社会増減と直接関わる還流移動,すなわちUターンの動向は,今後ますます注目を集めることになろう.
 しかしながら,国勢調査,住民基本台帳人口移動報告というわが国の人口移動統計の2本柱からは,居住経歴が調査されていないためにUターン移動を把握することは不可能であり,このためUターン現象に関する実態解明は不十分な状況が続いた.このような中演者らは,かつて長野県と宮崎県の出身者約5,300名に対し居住経歴等を尋ねる調査を実施し,その結果,1956_から_58年高校卒から1976_から_78年高校卒の世代にかけて,三大都市圏にいったん他出した者のUターン率が一貫して上昇したことなど,いくつかの知見を提示することができた(江崎ほか,1999,2000).
 本研究では,地方圏の人口減少の加速化が懸念される中で,最近の若い世代の動向を把握する必要性が生じつつあること,前回調査では男性出身者のみを調査対象としていたため,男女間のUターン率の違いなどに関する分析が課題として残ったことなどをふまえ,新たに山形県庄内地域出身者を対象として同様の調査,分析を行うこととした.
【_II_ 調査の概要】
 本研究では,山形県庄内地域出身の男女に対して,居住経歴や職歴等を尋ねる調査を郵送形式で行った.
 具体的には,山形県庄内地域の20の高等学校のうち12校の同窓会名簿(卒業生名簿)を入手し,1976_から_78年卒,1986_から_88年卒,1996_から_98年卒の3世代の卒業生に対して調査票を送付した.1976_から_78年卒業生には5,000通送付し,1,092通を回収(回収率21.8%), 1986_から_88年卒業生には7,000通送付し,947通を回収(同13.5%), 1996_から_98年卒業生には7,000通送付し,699通を回収(同10.0%)した.
【_III_ 調査結果】
1.他出経験のない者の割合
 調査対象者の居住経歴を,「1.庄内定住」「2.学卒Uターン」「3.一般Uターン」「4.県内他地域他出」「5.三大都市圏他出」「6.その他地域他出」に大別して,それぞれの人数を集計した.まず庄内以外の地域での居住経験のない「1.庄内定住」は1976_から_78年卒は27.7%,1986_から_88年卒は26.5%,1996_から_98年卒では14.9%であった.1986_から_88年卒から1996_から_98年卒にかけて大きく減少しているが,それまで停滞していた山形県の大学進学率が1990年代以降上昇を続けていることなどから,主に大学進学に伴う他出者の増加と考えられる.
 なお「1.庄内定住」の割合はどの世代においても男性が女性を数%上回っている.
2.他出経験者のUターン率
 「1.庄内定住」を除いた「2.学卒Uターン」_から_「6.その他地域他出」は,庄内以外への他出経験を有する者である.そのうち「2.学卒Uターン」は大学(短大・専門学校)卒業と同時に庄内に帰還した者,「3.一般Uターン」は他地域で就業し,一定期間経過後に庄内に帰還した者である.ここで,「2.学卒Uターン」の人数を「2.学卒Uターン」_から_「6.その他地域他出」の合計で除したものを「学卒Uターン率」,「2.学卒Uターン」と「3.一般Uターン」の合計を「2.学卒Uターン」_から_「6.その他地域他出」の合計で除したものを「Uターン率」と定義し,男女・学歴別に値を算出した.その結果,「Uターン率」については高校卒では上昇傾向が伺えるが,進学した男子についてはむしろ低下する傾向がみられた.これと呼応するように「学卒Uターン率」についてもおおむね低下傾向がみられる.なお,表からわかるように,ほとんどの集計項目について男性が女性を上回る値を示している.
3.Uターン者の属性
 きょうだい構成についてみると,男性では「一人っ子」「その他の長男」「次男三男等」の順に,女性では「一人っ子」「姉妹のみの長女」「その他の女子」の順にUターン率が高いが,世代とともに続柄間の格差は縮小する傾向にある.また「3.一般Uターン」について就業開始からUターンまでの期間を観察したところ,前回調査と同様,比較的早い時点でのUターンが大勢を占めた.1976_から_78年卒世代のUターンまでの平均年数は男性が4.45年,女性が4.56年であった.学歴別では,高卒者では男女差はほとんどみられないが,大卒者では女性のほうがUターンまでの経過年数が長い.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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