日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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中央日本の地方霊場と寺院宗派分布
*田上 善夫
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キーワード: 霊場, 寺院, 宗派, 中央日本
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p. 25

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抄録

_I_.はじめに 地方霊場には,特定の寺院,神社,霊山などとの結びつきがみられる。中でも寺院宗派は地方霊場開創とかかわりが深い。霊地にゆかりの観音や不動は真言系をはじめ天台系や禅系の寺院で祀られ,八十八ヶ所では弘法大師の旧蹟が巡られ,全国各地の霊場札所は真言系寺院が過半を占めて禅系また天台系が続いている。もともと諸神仏の鎮まる霊地に,それを祀る社寺が置かれ,地方霊場が開創され,それを人々が巡っており,地方霊場は地域の自然や文化の基盤の上にあるといえる。さらに,近世の都市整備過程での寺地・寺町の形成は,宗派寺院の移動により,都市部の霊場を開創・変容させている。地方霊場にかかわる要因は多様であるが,ここでは主に寺院宗派の分布について,その霊場とのかかわりの検討を試みる。_II_.寺院の調査 これまでにもおよそ都道府県単位での天台,真言,浄土,禅,日蓮系などの分布が明らかにされている。中央日本には全国で約200ある宗派の本山/事務所の8割があり,とくに京都と東京を中心にして,宗派は多様な分布をしている。そのため中央日本の個別の寺院について,その位置を示す。また宗派は創始された後に流派に分かれて変遷し,さらに宗派ごとに異なる地域に分布するものも多い。ここでは大戦後の分派の状況にもとづいて,宗派を63にまとめて分布を把握する。各寺院,その宗派,所在地は『全国寺院大鑑』(法蔵館,1991)による。_III_.寺院宗派の分布 地方霊場とかかわりの深い真言系では,高野山真言宗がとくに西日本に多く,豊山派は関東の利根川流域を中心にし,智山派が関東平野内部と房総南部・東部に分布する(図)。天台系は,天台宗が愛知以西と関東に,天台真盛宗が福井・滋賀・三重に分布する。禅系は,臨済宗妙心寺派が広域に分布し,岐阜に中心がある。建長寺派などは関東,東福寺派などは近畿を中心にする。曹洞宗はこの地域ではとくに太平洋側に多い。浄土系は,浄土宗が京阪奈を中心に多く,関東にも分布する。西山派は三河以西である。一方で,地方霊場とほとんどかかわりをもたない真宗では,北陸あるいは愛知から西に多く分布するが,本願寺派は大阪,大谷派は名古屋に中心がある。また,高田派は三重に,木辺派は滋賀に中心がある。日蓮系は,日蓮宗が房総と東海道と山梨に多く,法華宗とともに都市部に多い。奈良仏教系は,奈良周辺に分布する。_IV_.地方霊場と寺院宗派のかかわり およそ地方霊場は真言系,天台系,禅系の多い地域にみられる一方,浄土系でも真宗,また日蓮系の多い地域では少ない。この特定宗派の多少とは,他宗派との相対的な割合そのものではなく,地方霊場とかかわる宗派があれば,地方霊場は分布している。もとより地方霊場開創に関して寺院宗派分布は要因の一つであり,また寺院宗派分布自体が自然的基盤の上にある。さらに個々の地方霊場は異なる宗派から構成されており,寺院さらに宗派とはやや異質なものである。これらは,地方霊場の開創はさらに地域の複合的性格によることを示している。

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