日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

住民の洪水ハザードマップ利用実態
*竹内 裕希子
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p. 26

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抄録

1.はじめに ハザードマップは住民が防災情報を得ることを手助けする方法として有効である。住民がハザードマップを使用して防災行動を行うためには、まず、ハザードマップの存在を認知する必要があり、さらにハザードマップに記載されている情報を十分に理解し、防災行動へつなげることが必要である。ハザードマップに記載されている情報には浸水予測図以外に、避難場所や避難のタイミングなどを説明した「避難活用情報」と災害のメカニズムや過去の災害などを説明した「災害学習情報」が盛り込まれている。水害が発生する過程では、地形条件や土地利用条件の素因と降雨条件の誘因を理解する必要がある。ハザードマップは地形条件や土地利用条件などの素因を十分に反映しているが、誘因となる降雨条件に関しては仮定条件を多く含んでいる。降雨条件の降雨規模や頻度、破堤箇所などの不確実性を理解することが、ハザードマップの記載情報を正しく理解する上で重要である。水害ハザードマップの認知と活用状況、理解の程度に関して2000年東海豪雨災害被災地域でアンケート調査を行ったので報告する。2.調査地域概要および方法 名古屋市並び西枇杷島町では2000年9月11日に甚大な水害が発生し、災害後、ハザードマップを作成し2002年に住民へ配布した。この水害ハザードマップに記載されている想定浸水区域の居住者3000世帯を対象にアンケート調査を行った。対象地区:名古屋市西部(北区,西区,中村区,中川区)西枇杷島町調査対象:一人以上の普通世帯の世帯員調査世帯数と内訳:3000世帯(各区町600世帯ずつ)抽出方法:洪水ハザードマップ浸水危険区域内の住民基本台帳からの2段無作為抽出法調査方法:郵送による配布・回収調査期間:平成16年3月_から_4月回収率:28%(N=840)項目:属性に関する7項目、ハザードマップに関する9項目、確率に関する2項目3.結果・考察 名古屋市の場合、ハザードマップの認知は回答者の43%であった。43%のうちハザードマップを所有していたのは、65%であった。これは全体の18%である。西枇杷島町の場合、ハザードマップの認知は回答者の73%であった。73%のうちハザードマップを所有していたのは、88%であり、全体の54%であった。ハザードマップの注目箇所は、名古屋市の場合、ハザードマップを所有していると回答した117人中83名が浸水予測図と回答したのに対し、ハザードマップの作成背景や使用の際の注意点などに注目した人は41人であった。西枇杷島町でも同様の傾向がみられ、浸水予測図に注目したのは112人中86人であったのに対し、作成背景などは45人であった。 浸水予測図の理解に欠かせない確率に関して、200年に1回の確率降雨が今後30年間に発生する確率(正解は14%)と50年間に発生する確率(正解は22%)の2つの質問では、名古屋市の場合、今後30年間の発生確率の正解者は10%で、50年間の発生確率の正解者は13%であった。西枇杷島町の場合は、今後30年間の発生確率の正解者は5%で、50年間の発生確率の正解者は15%であった。 ハザードマップの認知は、名古屋市で43%、西枇杷島町で73%と違いがみられた。これは、市町規模の違いが反映されたと考えられる。所有は名古屋市で全体の18%、西枇杷島町で全体の54%であり、全住民に配布されたハザードマップでありながら、所有率の低さが伺えた。これらの原因は、市の広報誌として配布されたため、防災に関連した重要な地図であるという認識を持たれなかったことが考えられる。このことから、ハザードマップの配布方法を再検討することが必要であると考えられる。 ハザードマップには多くの情報が記載されているが、その注目箇所は浸水予測図に集中していた。ハザードマップを配布するだけではなく、住民に解説することが必要であると考えられる。また、住民の多くが注目をした浸水実績図の理解に欠かせない確率に関する理解は、十分でないことがわかった。このことから、最も注目している浸水実績図でさえも理解がされていないことが伺えた。4.まとめ 水害ハザードマップは、現在の水害リスクを軽減させるだけでなく、長い視点でみれば、居住地の選択やゾーニングにも利用されるべきである。そのためには、ハザードマップの作成・配布だけでなく、ハザードマップを読み解かせる場を設け、十分に記載情報を理解することが重要である。これらの視点に立ったワークショップの開催などで、ハザードマップの理解を支援していく必要がある。

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