抄録
ナスカ地上絵の考古学調査にかかわる地形分類を試みた。使用できる地形図・空中写真類は、1:250,000地勢図、1:50,000地形図、一部1:10,000地形図、ペルー空軍1949年撮影1:15,000空中写真(モノクローム)、2002撮影Quick Bird画像(最小分解能0.7m)、地上絵をねらった数多くの斜め空中写真である。
基図の縮尺にあわせて、3種の縮尺精度の地形分類を例示できる。Quick Bird画像を画像処理して地形分類の指標とすることが、今回の研究の中心であり、さらにこれらをナスカの地上絵の調査にどのように関連させることができるかを述べる。
〔地形概況1 ペルーの海岸山脈とアンデス山麓台地〕ナスカ台地はリマから約400km南の海岸台地の一部である。海岸台地は、海岸からアンデス山脈の山麓まで約50kmの幅で、海岸付近での高度が500m程の台地となっている。これを分断する河川の沖積低地はあまり幅がないから、“台地がちの海岸平野”である。 さらに海岸側では高度700から1700m程の山脈となっている部分がある。 海岸側から内陸にむかって、山脈・台地を覆って砂丘地が発達している。台地上面は乾燥して裸地となっている。沖積低地にのみ緑が濃い。
〔地形概況2 ナスカ台地〕ナスカ台地は、その北側をリオ・グランデの支流であるインヘニオ川の谷、南側を同じくリオ・グランデの支流であるナスカ川の谷に縁取られている部分であり、東西幅15から20km、南北の幅が約15km程、高度は山麓の扇頂で約500m、末端で約400m、台地の開析谷の深さは末端で最大100m、扇央では50m程度、みかけは“いわゆる高位段丘”である。 ナスカ台地は、海岸から40から60kmほど内陸側にあり、山麓扇状地起源で、厚さ100m以上の厚い砂礫層に構成される堆積段丘である。北側のパルパ台地の扇頂に連なるパルパ谷上流ではごく粗大な礫層が観察できる。背後山地では4500m前後に氷河地形を残す山地である。
海岸沙漠の降水量は夏1・2月にあり、0から25mmとされ、ごく乾燥のために、台地上面では、ほとんど植生がない。台地上面を流れる涸れ河のなかに、脈状・点線状に潅木が点在している部分がある。 台地上面は礫原であり、地表下数10cmから数mは暗褐色に風化している。この風化帯を人為的に取りのけると灰白色の未風化の礫・砂が露出することから、その色の違いを利用して線・帯・図像が描かれている(地上絵の主体は線と帯である)。山麓に点在する基盤岩(堆積岩)丘陵の表面も同様に風化部分は暗褐色であり、これを削って地上絵(線・帯・図像)が描かれている。
低地は間歇流_から_恒常流となっており、氾濫原は緑が濃い。みかけ高位段丘と氾濫原の間に幅狭い段丘面があり、地下水井戸くみ上げもしくは導水によって綿花などの耕地化が図られているが、水路の損傷などにより現在は放棄されている部分がある。ナスカ川の谷底低地にマイマイ井戸と地下水道がナスカ期以降につくられているが、地下水脈の検出には脈状に点在ししている潅木が目印になったのではないであろうか。
〔地形分類の精度と目的〕
1) 1:250,000程度の地形分類(地形地域区分)
//は地形境界が山麓線であることを示す。山地*と丘陵地 // 台地(15×20km)/ 台地縁辺の開析区(幅0.5_から_3km)**//低地(幅0.5_から_4km)
*山地と台地の付加記号として、大規模吹き上げ砂丘(高度2000m台に及んでいる)を描くことができる。 **台地区は、Congana Majuelosを境として、上面に河川の多い(1)東側区と、河川の少ない(2)西側区の2区分ができる。(1)は山地・丘陵地を後背地としており、(2)は河川が台地上面から発しているためである。地上絵・線の分布密度に明瞭な差が認められ、(2)では地上絵が多いが(1)では少ない。その理由は(1)において地上絵・線が描かれた後に河川の侵食によって消し去られたのではなく、絵や線を描く時点で土地が選ばれていた可能性がある。(2)では風化した地表が広い部分ために地上絵を描くのに適している。
2) 1:50,000程度の地形分類
山地斜面と丘陵地斜面の安定斜面と開析谷斜面の2区分(人工衛星画像の色調による2区分である***)// 台地面 (人工衛星画像の色調による3区分が可能/ 台地縁辺の開析谷斜面区(人工衛星画像の色調による2区分***)//沖積低地面
*** 2区分に〔日陰・山影斜面〕の色調がノイズとなっている。
3) 1:500程度の地形分類の可能性
最小分解能0.7mとされ、地上1mのものは図上2mmとなる。台地上面の色調の違い3区分程度をこの精度で図示できると線(帯)・図像と台地上面の河川との切りあい関係を検討できる。しかし情報量が多いため今回は部分的に例示できるに過ぎない。