抄録
1. 近年の日本における地震による建物被害の特徴 住家を中心に地震被災地域内の建物被害をみると、各戸ごとの構造やメンテナンスによる被害程度の違いに加えて、建築年数(建築基準強化の歴史と建築物劣化を反映)が古いほど被害程度が大きい(被害が多い)という傾向が一般的に認められる。さらに、建物被害は土地条件によって強く影響されることも広くみられ、とくに近年の地震においては、建物自体の堅牢度が全体的に向上したこと等もあり、地震動のみによるよりも、建物敷地の崩壊、亀裂、不等沈下等の地盤破壊に伴って被災する建物が多いことが目立つ。これらは、地形(とその改変)および地形で示されるごく表層の地質が重要であることを示している。 また、地震事例(被災地域)間の違いをみると、例えば地域特有の建物構造も、被害程度と関連する。近年立てつづけに大きな地震を経験している北海道では、地震の規模や震度の割に建物被害程度が小さい(被害が少ない)。小さい開口部(広い壁)、鉄板拭き等の軽い屋根、凍上対策のための深い布基礎等により、一般の住家がきわめて強いとされている。一方、1995年阪神・淡路大震災では、瓦屋根の、蟻害や腐朽を有する戦前からの住家がひどく被災した。またそのような住家の密集地区が都市内に存在した。2. 新潟県中越地震災害の特徴: 建物被害と土地条件を中心に 発表者が調査した小千谷市以北についてまとめる*。_丸1_ (山地・丘陵地に限らず)傾斜地において、小規模な崩壊や不等沈下にともなって被災したものが多い。ごく小規模な地形改変地の盛土が沈下または地すべりが生じたと考えられる。例:小千谷市中心部の段丘崖や谷壁斜面。小千谷市西部_から_西南部のわずかな比高の段丘崖。石積み擁壁の崩壊等。_丸2_ 丘陵地等に開発された住宅団地では、盛土部または切土盛土境界部に被害が集中した。ただし団地によって被害程度の差が大きい。被害程度:高町団地>>長岡NT>>長峰団地・ 長岡市高町団地断層に挟まれた狭い段丘。中央部を切って周辺部に盛土(1978宮城県沖地震で被災した当時の泉市黒松団地と同様の地形改変様式)。盛土厚は最大でも10m程度、団地縁辺部の盛土部で、沈下や崩壊が発生、建物にも大きな被害が及んだ。一部の崩壊箇所では、盛土だけでなく、地山まで達した可能性がある。団地中央部の切土部では、建物被害はほとんど認められず、アスファルトの小亀裂すらない。・ 長岡市長岡ニュータウン丘陵(段丘)を大規模に地形改変。全体として被害は少ない。ただし、青葉台の切盛境界部?で段差を伴う亀裂による建物被災事例あり。切土部(のごく小規模な盛土?)で沈下事例あり。陽光台の盛土部で液状化が広範に発生し、複数住家が傾斜。・ 長岡市長峰団地段丘および断層の撓曲崖。被害見えず。ブロック積み擁壁の一部に亀裂のみ。_丸3_ 地形(表層地質)と被害分布・ もっとも震源に近い小千谷市では、低地と台地の被害程度の差は明瞭ではない。・ これより離れた長岡市では、低地で被害が少なく、丘陵地等の地形改変地の一部で被害が大きい。震動よりも地盤破壊による被災が多いことが明瞭(上記_丸2_のとおり)。・ さらに震源から離れた中之島町では、低地内の集落間で被害程度の差がありそうだ。震動と地盤との関係が推察される。_丸4_ 小千谷市内等で、電柱の傾斜、マンホール浮き上がり、道路の沈下など、液状化による被害が多い。ただし道路での発生が多く、建物にまで影響しているかは不明である。_丸5_ 被災地域に多い雪対策としての高い基礎を有する住家は、地盤破壊に対して強いと考えられる。ただし基礎と建物の接合部には、震動によるとくに大きな力が加わる。一方、鉄板拭きの軽い屋根と太い柱は、震動に対して有利と思われる。 新潟県中越地震は、山地や雪国の地震災害というこれまであまり注目されてこなかった課題を顕在化させた一方で、上記のように、近年の日本においてしばしば経験されてきたのと同様の被害も発生させた。土地条件を考慮した土地利用が重要である。(* 調査は、平野信一氏、吉田明弘氏とともに実施した。)