日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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カムチャツカ半島中央部,エッソ東方のカール内における地形発達と植生遷移
*西城 潔佐藤 利幸山縣 耕太郎大月 義徳
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p. 53

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抄録
1.はじめに 最終氷期の日本列島の古環境を考える上で、極東ロシアのカムチャツカ半島は興味深い地域である。これまで演者らは、同半島中央部のエッソ付近の山地において地形・土壌・植生に関する共同調査を行い、氷河・周氷河作用の盛衰と植生遷移との関係について検討を進めてきた。本発表では、エッソ東方山地のカール内において見出された微地形発達と植生遷移との関係について報告する。2.調査地域の概要 カムチャツカ川の支流であるビストラヤ川の谷底部に位置するエッソ(標高500m)の東方には、南北方向に連なる標高1500m前後の山稜が存在する。この山地に氷河は認められないものの、主稜線付近には過去の氷河作用で形成されたカール群が分布する。調査を行ったカール(カール底高度約1000m)は、主稜線西側に発達し、エッソ東方約6kmに位置する。カール内は、氷河消滅後に形成された斜面地形や谷底面で占められている。3.カール内の微地形単位とその発達過程 カール内の微地形は、ほぼ東西方向に伸びる谷底面を挟んで右岸側(南向き)と左岸側(北向き)とで非対称な分布を示し、前者は主に周氷河性斜面で、後者はフリーフェイスと崖錐とでそれぞれ占められる。斜面構成物質やテフラ、植生の特徴から、約2千年前以降、周氷河斜面では下部から上部へ向かって斜面安定化が順次進行していったことがわかる。周氷河斜面上部はほぼ無植生であるが、表層を構成する岩屑層の特徴から、現在はこの部分においても顕著な物質移動は生じていないものと考えられる。一方、左岸側の崖錐では、少なくとも2千年前以降現在に至るまで、比較的活発な物質移動が生じてきた。残雪分布や地表面上に認められる微地形の特徴からも、崖錐上で現在物質移動が継続していることが推定できる。また谷底面もその構成物質の特徴から、物質移動の盛んな微地形単位と考えられる。4.微地形単位の発達と植生遷移カール底をほぼ南北方向に横切るように設定した測線上の数地点で、一定面積内に出現する植物(木本・草本)の種数を調べた。その結果、崖錐・谷底面および周氷河斜面中部で種数が多くなる傾向が認められた。それに対して種数が少ないのは、周氷河斜面下部と上部である。以上の特徴は、各微地形単位の発達過程または安定度に対応した植生遷移の段階を示していると考えられる。すなわち崖錐や谷底面など現在でも物質移動が活発(不安定)な微地形単位上では、地表面の適度な撹乱が維持されることにより優占種が出現し得ず、種数が多くなる。一方、周氷河斜面下部では、斜面安定化後の十分な時間により遷移が進行し、既に優占種が決まっているために種数が少ない。逆に周氷河斜面上部は安定化の時期が遅く遷移の初期段階にあるため種数は少ない。また周氷河斜面中部では、斜面安定化後の経過時間が同斜面下部に比べて短く、遷移が十分に進行していないために多くの種が競合した状態にあるものと考えられる。
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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