日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 218
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北アメリカにおける日本人のツーリスト・システム
*小島 大輔
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抄録
1.はじめに
 観光流動の理解は,観光地の発展段階および観光地間の相互作用を明らかにする上で重要なものと考えられる.しかし,データの入手が困難であることなどの制限から,観光地流動に関する理論の展開および研究の蓄積は少ない.とくに,観光流動研究において,ツーリストの集中,分散に大きな影響を及ぼす旅行商品の空間的特性および展開過程についてはいまだ不十分である.
 観光流動を体系的に把握する試みには,「ある地域におけるツーリストの分配ネットワークを形成する,相互に関係し,依存または作用するツーリスト・リゾートにより構成されたもの(Oppermann 1994)」として,概念化されたツーリスト・システムがある.観光流動についての既存の研究は,出発地と目的地という枠組みで,移動距離との関係,または都市と非都市や第一世界と第三世界などの二分法で議論されることが多く,目的地間の関係について焦点が当てられることは少なかった.しかし,他の観光地との関係なくして,1つの観光地が成立している場合はほとんどない(Lue et al 1993).観光流動によって,各観光地は他の観光地との相対的関係を有し,それらは統合されたシステムの構成要素として機能している.このように,広域的な地域における観光流動について包括的に理解する際,ツーリスト・システムという概念は有用であると考えられる.また,観光流動は,観光地の発展と大きな関連性をもつものであり,ツーリスト・システムの変化および再編成から,観光地の趨勢を検討することも必要であると考えられる.
 日本人の海外旅行は,1964年の自由化以後,3度の海外旅行ブームを経て,2005年には1700万人を超える日本人が海外旅行を行っている.日本人の海外旅行の目的地のなかで,北米は常に最大の目的地の1つであり続け,その旅行商品は成熟していると考えられる.したがって,ツーリスト・システムの変化を検討するのに適切な事例であると考えられる.
 本研究では,日本人向け旅行商品を事例として,北米において形成されたツーリスト・システムの変化過程を明らかにすることを目的とする.

2.データおよび研究方法
 本研究のデータには,リクルート社発行の海外旅行情報誌「AB-ROAD」に掲載されている旅行商品の情報を使用した.この雑誌は,1984年に創刊された月刊誌で,多くの旅行商品を掲載し,旅行商品のメディア販売という新たな流通チャネルの確立に大きく貢献した.また,これは従来のカウンター販売と比較して流通コストが低いことや,また紙面上で商品の比較が可能であることから,低価格な旅行商品の開発や旅行商品の多様化を促すこととなった.したがって,出版時に供給された旅行商品について網羅的に把握することが可能である.
 分析の対象とした旅行商品は,1985,1990,1995,2000年の1月号から12月号に掲載されたものである.これらの旅行商品の旅程について,宿泊地をノードに設定し,旅程における各ノードの機能,ノード間の関係を導出し,さらに,それらの経年的な変化について検討を行った.

3.結果および考察
 分析の結果,アメリカにおいて,西部のサンフランシスコ,ロサンゼルス,東部のニューヨークを頂点とした観光流動の階層の変化,および上位階層のノードの機能が多様化した.カナダにおいては,トロントのゲートウェイ化によって,東部システムが上位階層への移行した.さらに,および秋季,冬季の観光地の出現とそのシステム化などが明らかになった.また,カナダのシステムの一部がアメリカのシステムから分離するといった,サブシステム間の関係の変化などが明らかになった.分析結果の詳細は当日示す.

文献
Oppermann, M. 1994.The Malaysian tourist system.Malaysian Journal of Tropical Geography 25(1): 11-20.
Lue, C., Crompton, J.L. and Fesenmaier, D.R. 1993. Conceptualization of multi-destination pleasure trips. Annals of Tourism Research 20: 289-301.
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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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