日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P611
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北海道東部,根室半島における小規模凍結マウンド内部の有機物含量と水分保持特性
中村 智史*尾方 隆幸
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抄録

1. 背景および目的
厚い季節凍土が形成される北海道東部には小規模凍結マウンド(以下,ハンモック)がみられる.この地域のハンモックは,「十勝坊主」と「谷地坊主」に分けられ,それぞれ形成過程が異なる微地形と考えられている.しかしながら,その差異を詳細に検討した研究はほとんどない.
本発表では,十勝坊主と谷地坊主が混在して分布する根室半島において,両タイプのハンモックの内部構造を,土壌の諸特性,特に有機物含量と水分保持特性の点から比較・検討する.
2. 調査地・調査方法
調査地とした湿原のうち,地下水面が地表面付近に位置するような環境下には,谷地坊主と十勝坊主の両者が密に分布し,特に湛水する環境では谷地坊主が卓越する.一方,相対的に乾燥している環境下には,十勝坊主のみがまばらに分布する.
本研究では,形状や環境条件の異なる8つのハンモック(十勝坊主4,谷地坊主4)の断面を記載し,各断面から層位別に撹乱・不撹乱試料(100 ccコアサンプラー使用)を採取した.これらの試料を持ち帰り,有機物含量を定量した.また,体積含水率・水分保持特性など土壌物理性の測定を行った(試料分析結果は,本要旨では十勝坊主3つと谷地坊主2つの計5つの結果のみを示す).
3. 結果
断面調査を行った全てのハンモックで完新世テフラが認められ,そのうち谷地坊主の2つで,テフラがハンモック内部に巻き込まれた明瞭なクリオタベーション構造が認められた.
有機物含量を両タイプで比較すると,ハンモック表層では十勝坊主(26-34%)より谷地坊主(39-52%)で高く,顕著な差異を示すが,次表層(いずれも30%程度)およびそれ以深(いずれも20%程度)での有意な差異は認められなかった.両タイプの相違点は,有機物含量そのものというより,植物組織の残存性(泥炭の分解度の違い)であると考えられる.
含水率の深度プロファイルは,十勝坊主と谷地坊主で異なる結果を示した.すなわち,十勝坊主では表層から下層に向かい高くなるが,谷地坊主では最表層で最も高く,その下層でいったん低くなり,最下層でまた高くなる.地下水面以深にあたる最下層を除けば,谷地坊主の含水率と有機物含量は正の相関関係にあり,谷地坊主表層の高い有機物含量は土壌水分の保持に寄与していると考えられる.
pF試験の結果,谷地坊主表層では十勝坊主表層に比べ,特にpF 0-1.0の多湿条件で顕著に高い水分含量を示した.下層試料の同条件での水分保持特性には,両タイプで顕著な差異は認められなかった.
十勝坊主と谷地坊主では,水分保持特性に大きな相違があり,これには有機物含量もしくはその存在形態と関連があることが示唆された.とりわけ,有機物に富んだ谷地坊主の高い含水率は,凍上性の点で有利である.

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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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