抄録
災害復興に関する重要課題のひとつは、住宅の確保・復興である。住宅復興の遅れは、被災者の肉体的・精神的ストレスを引き起こすだけでなく、集落や街レベルでの復興の遅れへとつながる(早川2001、木村・高橋2004)。関東大震災や阪神・淡路大震災を経験したわが国では、とくに大都市災害後の住宅復興に対する議論が盛んで、密集市街地・狭小住宅、マンションの再建や仮設住宅の立地場所等、都市部独特の課題が指摘されてきた。同様に農村部等でも地域的特徴が復興に強く関わることが想定されるが、その研究事例は限られている。 本発表は、2003年宮城県北部連続地震で被災した宮城県河南町根方地区(現石巻市、調査対象13世帯)、鳴瀬町西福田地区(東松島市、12世帯)、南郷町小島地区(美里町、7世帯)において聞き取り調査等を行い(計32世帯)、世帯レベルでの復興過程を把握することにより、農村部における住宅復興の特徴や課題について考察するものである。住宅復興過程 農家の広い敷地や付属建物を利用して、自宅から離れずに避難生活を送る例が認められた(プレハブ、テント、車、倉庫 計7世帯)。つながりの深い近隣や親戚との間では、情報交換や再建・補修に関する種々の支援がなされた。また再建にあたっては、拡大家族(直系家族)であることは、住宅融資を受けやすくした。これらは、農村部の特徴が、住宅復興や生活再建に有利に働いた点と考えられる。 一方、住宅再建・補修に加えて、農業施設や農具、農地の修復のための費用が発生した世帯があり(9世帯、平均約120万円)、墓に多額の補修費用をかけた世帯も多い(8世帯)。公的支援策と保険・共済制度 全壊の場合、住宅再建に関わる費用として国(最高で200万円)、宮城県(同100万円)の公的支援制度があり、町からも10_から_30万円の補助があった。対象世帯でみると、住宅に関する公的支援制度の利用世帯は18世帯で、うち国から2世帯、県から18世帯であった。また、対象世帯ではJA共済に加入する世帯が14世帯、地震保険が1世帯あり、全体の半数がこれらを利用できた。他に、町によって異なるが、義援金等が10万円前後あった。これらの公的支援や保険は、補修の全額をまかなった世帯もある等、補修については効果が大きかった。しかし再建については費用の大きさ(平均約2,500万円)と比べるとその効果は限られたものと言わざるを得ない。また拡大家族の多い農村部では、世帯収入制限によって、国の支援制度を受けられないまたは減額される世帯が多く存在した(4世帯)。世帯間の差 結局のところ、住宅を再建した世帯の大部分は住宅ローンによって資金を確保した(再建15世帯中12世帯以上)。若い世代(そのほとんどは農外就業)が同居する世帯では融資を受けられたが、高齢者のみの世帯では再建を断念して転出した例もある。 再建がなされた場合でもその時期にも大きな差が生じた。再建場所を農地転用によって確保した世帯(4世帯)では、転用許可のために着工が1年近く遅れた。また、世帯員の年齢、健康状態を考慮して、着工時期をずらしたり(2世帯)、再建・補修より農業施設・農具等の復旧を優先させた例(2世帯)もみられた。同様のことは、補修世帯でも生じた。 住宅融資の条件緩和や地域の特性にあわせた公的支援の条件見直し等が必要である。また、プレハブに関する補助等の支援策も、対象地域に限らず農村部にとって有効であると考える。