抄録
社会福祉が女性の仕事とされるのは,社会福祉の分野がその担い手も対象も女性が多くを占めているからである(杉本,1993)。社会福祉分野などの一定の職種への女性の集中は,賃金の低さ,地位の低さ,男性の優位性を導き出すことになっている。社会福祉を仕事とする男性が増加しても,管理的仕事であり,女性は実践的な現業部門の仕事に就くことが多く,社会福祉は依然として低賃金で定着率の低い「女性の仕事」であるといわれる。1990年代以降,日本では老人介護サービス業おいて従業者が増加した。特に農村地域では限られた雇用機会のなかで,介護サービス業の労働力需要が,女性にとっての貴重な雇用機会として注目されてきた。しかしながら,介護サービス業における雇用の実態,介護サービス就業女性の仕事と家庭の両立等に関する研究は乏しく,女性の就業と生活を絡めたこれらの課題の検討が農村地域の女性就業を理解する上でのテーマになっている。本研究の目的は,東広島市を事例として,非大都市圏地域に展開する介護サービス業の雇用特性,および就業女性に対する周囲からの支援の状況の把握である。3世代同居世帯の比率の高さなど,都市とは異なる環境のなかで,いかなるサポートを受けながら女性が就業しているのかを検討する。このため,本研究では事業所での聞き取り調査を実施するとともに,介護サービス事業所に従事する女性を対象に就業と生活に関するアンケート調査を実施した。分析の結果,この地域の介護サービス事業所では次のような雇用特性がみられた。第1に,中高年女性を中心した従業者構成である。家事あるいは介護の経験が仕事に生かせる点,パートタイム勤務の多さ等が主な理由である。男性を雇用する事業所もあるが,男性の構成比は最も高い事業所でも3割に満たない。第2に,勤務時間の不規則性である。夜間勤務,土日勤務,緊急出勤が必要な事業所も多い。介護職には,夜間や土日の勤務あるいは対老人サービス,体力等が要求されるために,介護サービス事業所では従業者の確保が課題になっている。このため,介護サービス事業所は従業者の採用において様々な工夫を行っている。従業者の希望を重視した勤務時間の設定,託児所の設置等がその例である。一方,女性の生活については家事や育児の分担において世帯形態による違いがみられた。家事・育児の主な分担者は,核家族世帯では夫であるのに対して,親族が同居する親族世帯では親である。夫が家事をすると回答する女性の比率は,親族世帯よりも核家族世帯で高かった。介護サービス業の成長は,仕事に「生きがい」,「社会貢献」,「自己実現」などを求める農村の女性に貴重な就業機会を提供した。利用者あるいは職員間の人間関係,健康等の面で悩みを抱える者もいるが,比較的安定した職場で高い収入を得て,また仕事に充実感を感じているため,現職を継続する意志を持つ者が多い。しかし,土日あるいは夜間の勤務に従事する者の比率は高く,家事や育児の面でのサポートが必要であることは確かである。