日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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中国・上海における都市ヒートアイランド現象の実態解明に関する研究
*白 迎玖
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p. 212

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抄録

1.はじめに
近年、先進国のみならず、途上国においても、都市ヒートアイランド現象(以下 UHIと略記)が顕著になり、都市の熱環境が悪化している。特に、中国・上海をはじめとする途上国の大都市では、産業や人口等の一極集中化に伴い、人口密度が過度に高くなっているため、UHI現象が頻繁に発生し、さらに夏期の日中の最高気温が40℃を超える日も出現している。先進諸国が経験した経済成長と環境悪化の関係に照らせば、今後も急速な経済成長が見込まれている東アジア地域において、UHI現象による環境・社会問題は一層顕在化することが予想される。最近、上海においては改革開放経済のもとでの急激な開発に伴う高温域が都市中心部から黄浦江の東側に拡大していることが指摘された。しかし、自動気象ステーションの設置点数と観測範囲が限られているために、都市全体における高温域の分布を詳細に把握したとは言い難い。また、衛星データを用いた上海におけるUHIに関する研究も行われているが、地表面温度と気温との関連が明確にされておらず、UHIの分布とその変化を必ずしも十分に解明できなかった。そこで、発展の著しい上海におけるUHI実態を把握するために、UHIの時間的・空間的の変動を正確に捉えることが重要であり、特に測器の設置場所、設置点数および観測時刻を十分検討した上で、都市全体を高密度で覆う精度の高い観測網を設置する必要がある。本研究は、日本で蓄積された研究成果を有効利用し、途上国の実情に鑑み、観測およびシステム保守のコストを抑えながら、中国・上海において高密度自動観測システムを初めて構築し、長期間にわたって気象観測を実施して得られたデータに基づいて、上海におけるUHIの実態を解明することを目的としている。また、本研究で構築された観測システムおよび研究手法は、中国におけるUHIの研究だけなく、途上国における都市気候研究の発展にも貢献することが期待される。
2.観測概要
本研究では、2005年4月から上海市をカバーする39箇所で気温と湿度の自動観測が実施されている。図1に示すように、公園緑地・公用緑地で百葉箱(箱内の小型自動記録式温度・湿度ロガー)が設置され、直射日光を受けずに自然通風状態で測定を行うことができた。観測点の選定にあたっては、なるべく地点の配置に偏りがないように努力し、さらに、設置場所の環境が等しくなるように配慮した。また、UHIの中心部に相当する都市中心部には高密度に配置した。百葉箱はすべて公園緑地と住宅地内の公用緑地に設置されており、センサーの高さは地上約1.6mとした。10分間隔で記録したデータを約50日ごとに回収すると同時に、得られた観測記録のデータベース化を進めてきた。
3.観測結果
2005年の観測によると、月平均気温が上昇していることが確認された。2005年6月1日から8月31日までの真夏日日数(日最高気温>30℃)は、都市の中心部は73日、郊外は68日となった。また、熱帯夜日数(日最低気温>25℃)は、都市の中心部は45日、郊外は37日となった。また、2005年7月の最高気温は39.8℃(南園公園)となり、都市中心部には日最高気温35℃を超える日数は17日であった。日最低気温の最大値は31.0℃(南園公園)であり、熱帯夜日数は、都市中心部は26日、郊外は19日であった。風の弱い晴天夜間にUHIがはっきり存在し、春季の場合、UHIも発生している。2005年7月のUHI強度の最大値(月平均値)は4.3℃で(図2)、8月のUHI強度の最大値(月平均値)は3.4℃であった。また、図2に示すように、UHI強度は日没後急速に増加し、その後は同じような状態が日の出頃まで続くことが明らかになった。UHIのピーク値は、22時_から_午前1時までに現れた。特に、観測点の環境によって、UHIのピーク値とピーク値の出現時間が異なったことから、公園緑地の暑熱緩和効果が明確にされた。図2に見えるように、7月の場合、住宅地内の公用緑地より公園緑地のUHI強度の最大値が約1.3℃低かった。

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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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