日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

1847年善光寺地震に伴う小松原段ノ原地区の地表地震断層とその浅部地質構造
:トレンチ掘削・ボーリング調査により推定される wedge thrust 構造
*杉戸 信彦岡田 篤正堤 浩之末岡 茂山本 晋也宮下 健司
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p. 36

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抄録

はじめに 長野盆地西縁断層帯は北西-西側隆起で長さ約58kmの逆断層帯である.活動間隔は約950年と短いとされ,最新活動は1847年善光寺地震と最近である(粟田ほか 1987;奥村ほか 1988;粟田ほか 1990;佃ほか 1990).よって逆断層の地震時地表変位(形態的特徴・変位量・活動区間)の再現性を検討するうえで絶好の調査対象のひとつといえる.我々はこうした観点から本断層帯の微小変動地形・古地震の調査を進めている.
 本断層帯ではこれまで主断層を対象とした本格的な掘削調査は実施されておらず,断層構造や活動履歴に関する信頼性の高いデータは得られていない.
段ノ原地区の地形と1847年善光寺地震に伴う地変 段ノ原地区には西側の犀川丘陵から東側の長野盆地へと流下する中小河川によって複合扇状地面が形成されており,南北にのびる丘陵・盆地境界部に西側隆起の断層トレースが認定されている(東郷 2002).従来,1847年善光寺地震の際に本断層帯全体にわたる多くの地点で地表地震断層が出現したことが指摘されており,段ノ原地区に関しても「筋たちて裂目を為したるは段ノ原のみなりき」「大なる裂目を生じたりし」「平地より一丈余も高き丘陵となりたりし」など特徴的な地変が生じたことを示す古記録が残されている(佐山・河角 1973;粟田ほか 1987;奥村ほか 1988;東郷 2002).
トレンチ掘削・ボーリング調査 2005年10月,段ノ原光林寺門前の扇間低地において,比高数10mの変動崖の基部を横切るトレンチを掘削した.その後,トレンチの約1m北でコアを3本取得した.
層相・層序・編年 トレンチ北壁面のスケッチとコアの柱状図を簡略化して断層と直交する断面に投影した(図1).トレンチ北壁面と南壁面の地層・構造の対応は非常によい.
 地層はすべて未固結であり,河成砂層や湿地性の腐植質泥・砂層,古土壌が主である.編年に関しては14C年代(暦年較正後の値を示す)のほか,磨耗していない多数の土器片(栗林式土器,弥生時代中期後半:長野県編,1982)が壁面H層とコア02より出土している.
断層構造 壁面には東傾斜の明瞭な逆断層群・正断層群がみられる.主要な逆断層には,B層まで変位させA層(耕作土)に覆われるものと,G層まで変位させD層に覆われるものがある.一方,主要な正断層はB層まで変位させA層に覆われる.正断層群はlistric な形状を有し,深度数mでほぼ水平になると予想される.これは,上盤の地層が断層近傍ほど,また下位ほど西に大きく増傾斜しており増傾斜幅が約5mと狭いためである.したがって正断層群は,地形形成に寄与する規模の変位量をもつものの,表層現象にすぎないと考えられる.
 コアをみると,03下部には湿地性の腐植質泥・砂層が多くみられるが,01・02の同じ標高では湿地性の地層はわずかであり,14C年代も著しく古い.よってコア02・03間に西側隆起の地形的起伏をつくる断層が推定される.
 本断層帯が本来北西_から_西傾斜の逆断層であること,変動崖基部より10-15m盆地側に東傾斜の逆断層群が存在し地形形成に寄与する規模の変位量をもつことから,本地区では既存の断層面の盆地側にあらたな断層面が形成され,東 vergent の wedge thrust 構造(Medwedeff 1992)をなしている可能性が高い.その場合コア02・03間の推定断層は thrust wedge 下端をなす西傾斜の逆断層に相当する可能性が高い.thrust wedge 下部の推定同時間面は西傾斜を示すが,fault-bend fold モデル(Suppe 1983)に基づくと,これはthrust wedge 下端の逆断層の flat や ramp に対応する構造と解釈される.
 listric な正断層群は thrust wedge 先端部付近に生じており,その生成・活動には thrust wedge の前進が深く関与する可能性が高い.よって正断層群が単独で活動する可能性は低い.
活動時期と地震時地表変位 最新活動はA・B層間に認定される.その時期はAD1515以降であり,おそらく1847年善光寺地震に相当する.古記録にある「筋たちて」は直線状高まり地形の出現を示しており,壁面の構造から推定される地表変位と調和する.これは「段ノ原のみ」に出現した特徴的な地表地震断層である.この地表地震断層は人工改変によって消失しており,1947年米軍撮影縮尺約1万分の1空中写真にも認められない.
 1回前の活動はD・G層間に認定され,その時期はBC354-AD1646と推定される.断層構造・変位量より,この活動に伴っても最新活動と同様,直線状高まり地形が出現した可能性が高い.

謝辞: 現場を訪ねられた方,調査地地権者の方,川中島建設(株),(株)長橋商会,日本綜合建設(株)など多くの方にご指導ご協力いただいた.

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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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