抄録
1.問題の所在1990年代後半から,フリーターやニートなど,正社員として働いていない若年者の増加が,関心を集めている.こうした状況を受けて,若者の働き方に関する実証的な知見の蓄積が進んだ.とりわけ,労働政策研究・研修機構などが,若者の働き方に関する基礎的なデータを収集し,それに基づく研究成果を公表してきたことで,フリーターやニートの増加は社会全体の問題であるというコンセンサスが形成されたといえよう.しかし社会全体の問題であることは,必ずしもその問題が,質的・量的に全国共通の形をとることを意味しない.地域労働市場の態様や住民属性が地域的に異なることから,若年不安定就労者の属性や不安定就労になるプロセスは,必然的に地域的に異なる.今日では,地域の実情を反映した若年雇用対策の必要性が指摘され,若年者に対して包括的な就業支援を行うジョブカフェの整備などが地域主導で進められている.しかし肝心の若年雇用に関する地域の実情把握は,遅れているといわざるを得ない.本発表は,既存資料の分析から,若年不安定就労者の問題を分析するにあたって地域的視点を導入する意義を示すとともに,大分県における事例研究の途中経過を提示することを目的としている.なお,本稿のいう若年不安定就労者とは,15-34歳で在学しておらず,正社員でない者(無業者を含む),女性については配偶者のいない者である.2.若年不安定就労者の地域差都道府県別の正社員率は,大都市圏で低い傾向にあり,裏を返せば若年不安定就労者が大都市圏に多いことがわかる.しかし四国や九州,東北など,国土の縁辺部にも,大都市圏と同程度に正社員率の低い県が存在する.絶対数では大都市圏に生活基盤を持つ若年不安定就労者が多いことは事実だが,若年不安定就労者比率の増大は大都市圏固有の問題ではない.つづいて転職経験のあるフリーターについて,前職の雇用形態が正規の職員・従業員である割合を東京都とその他の地域に分けて集計すると,東京都以外では,東京に比べて正規職からの転職でフリーターになっている割合が高いことが明らかになる.また,フリーターの前職離職理由のうち,非自発的な理由の割合は男女とも東京都以外が東京都を上回る.一方,転職経験のある正規職のうち,正規職以外から転職した者の割合は,東京都の方が高かった.これらを総合すると,東京都以外の地域では,東京都に比べて若年者がいったん正規職についても不安定就労に陥る可能性が高く,逆に不安定就労から正規職に移行することは難しいと考えられる.3.大分県の事例 大分県はフリーター率,高卒無業率ともに全国平均を下回る.有効求人倍率は全国平均以下であるが,九州では最も高い.いくつかの指標を見る限り,大分県の雇用情勢は九州の中では相対的に良好である.とはいえ,若年不安定就労者は増加している.本発表では,大分県における若年不安定就労者の実像を明らかにするため,大分県庁より貸与を受けた「若年不安定就労者実態調査」の個票を二次分析する.有効サンプルは男性170人,女性256人である.学歴で見た場合,最も多いのは高卒であり,男女ともこれまでに正規職についた経験を持つ者が約半数に上る.現在非正規職に就いている理由として,「時間や場所を自由に選んで,働きたかったから」や「夢を実現するまでの生活費を稼ぎたかったから」を挙げる者も一定程度存在する.しかし男女とも最も選択率が多いのは,「本当は正社員として働きたかったが,自分の希望する職種や求人がなかったから」である.ここから正社員志向が伺えるが,「本当は正社員として働きたかったが,採用されなかったから」の選択率が一番多いわけではない.つまり,求人が量的に不足していること以上に,求人の内容が求職者の希望とミスマッチを起こしていることが問題となっている.こうしたミスマッチは,学卒就職の時点ですでに起こっている.発表当日は,このミスマッチについて具体的に検討するとともに,ジョブカフェによる若年不安定就労者支援についても言及したい.