抄録
1.研究目的:1990年の入管法の改正以降,静岡県浜松市をはじめとしたブラジル人が多く居住する地域では,生活者としての彼らのニーズを満たすために,多種にわたるエスニック・ビジネスが成立・展開をみせる.ブラジル人を対象としたエスニック・ビジネス事業所は,日本における職業を斡旋する斡旋業者が介在する市場媒介型移動の中で弱体化したブラジル人コミュニティを補完し,通常の商業活動のみならず,幅広い社会的・文化的機能を果たすこともある.これらエスニック・ビジネスは,浜松市における「外部市場進出型ビジネス」や「日本人による準エスニック・ビジネス」の成立にもみることができるように,受入先地域社会と深く関わりあいながら展開する.時にエスニック・ビジネスは,地域活性化の原動力として,受入先地域社会に大きな影響を与えることもある.しかしながら,これらエスニック・ビジネス事業所といったいわばエスニシティが投影される一種の社会空間の核ともなる場所が,受入先地域社会側でいかに受け止められているのか,そして受入先地域社会にいかなる意義をもたらしているのかはいまだ解明されていない.エスニック・ビジネス事業所をはじめとしたエスニック集団にとり「特別な場所」は,受入先地域社会の中で,エスニック集団成員だけに閉ざされ,孤立した場所ではない.受入先地域社会の住民も,日々の生活の中でその場所をめぐり様々な経験を行っており,その場所をめぐりエスニック集団との間に様々な相互関係を築いているのである.このような意味において,エスニック・ビジネス事業所は,一種の異文化混淆の界面,「コンタクト・ゾーン」とも呼ぶことができる.そのため,受入先地域社会側に注目し,ミクロスケールでの調査を行い,異文化混淆の界面における日常生活レベルでのエスニシティとの接触の様態やそのプロセスを明らかにすること,あわせて,受入先地域社会内のエスニシティやその諸現象に対するスタンスの温度差を生み出す要因を分析することは,日常生活の中で生じるエスニック集団成員と地域社会住民間の摩擦や偏見の要因解明にも繋がる.少なくとも,エスニシティの地理学的研究が,多文化共生社会の構築へ向けて何らかの使命を帯びているのであれば,これら受入先地域社会側のミクロスケールでの研究は,その足がかりとして非常に重要な意味を持つと考えられる.そこで,本研究では,静岡県浜松市を対象地域とし,ブラジル人を対象としたエスニック・ビジネス事業所(以下,「ブラジル店」と表記)を日本人住民とブラジル人集団が接触する「コンタクト・ゾーン」と捉え,ブラジル店をめぐる受入先地域社会住民の意識,経験,行為を分析し,「コンタクト・ゾーン」としてのブラジル店が受入先地域社会に対し持つ意味を考察することを目的とする. 2. ブラジル店に対する日本人地域住民の意識及び利用状況:3. ブラジル店を取り巻く日本人地域住民の行為:4.「コンタクト・ゾーン」としてのブラジル店が受入先地域社会に対して持つ意義と可能性: