日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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金沢市における防災型土地利用規制導入に対する住民意識
坂井 志穂*青木 賢人
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p. 93

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抄録

1. はじめに
 大規模な活断層地震が発生した際には,強振動による被害と地表変位による被害とが発生する.このうち,地表変位による被害は,活断層線上の土地利用を規制することによって回避可能であるとして,カリフォルニア・ニュージーランド・台湾などでは活断層上の土地利用規制・建築規制が導入されている.一方,国内に多数の活断層を抱える日本では,原子力発電所とダムのみが規制対象であり,活断層を対象とした包括的な法的規制はおこなわれていない.これに対し中田(1990;1992)や増田・村山(1998;1999;2001a;2001b)らは,日本における活断層沿いの土地利用規制の導入可能性を検討してきた.しかし,日本では高度な土地利用が進んでいることに加え私有財産権の問題もあり,住民合意抜きに法的規制を導入することは困難であると考えられる.そこで本研究では,地震発生確率が高い森本・富樫断層帯を有する金沢市に居住する住民を対象にアンケート調査を実施して,住民による防災型土地利用規制の受容可能性を検討した.

2. アンケート調査の概要
 アンケートでは _丸1_自然災害・地震災害に関する意識と行動 _丸2_防災型土地利用規制導入に関する意識 を問う設問を設定した.また,_丸1_と_丸2_の間には,活断層地震による被害および森本・富樫断層帯の説明を入れた.
 調査対象は,森本・富樫断層の直情に位置する金沢市内の9校下1)で,各校下につき約100世帯にアンケートを配布した.2005年9月9日から11月15日にかけて実施し,各世帯の郵便受けにアンケートを投函し,その後訪問形式で回収した.不在世帯・未回答世帯には返信封筒を置き,郵送により回答を依頼した.配布総数934に対し,回収数は664(回収率71.1%)に達し,アンケート内容,すなわち地震災害とその対策に対する住民の関心の高さが窺われる.しかし,設問が煩雑であったこと,回答者の多くが高齢者であったこともあり,完全な有効回答数は348(37.2%)にとどまった.そのため,以下では部分的な回答も含めて集計している.

3. アンケート結果から見る防災型土地利用規制の受容可能性
 地震防災のための公的介入に対しては,積極的な税金投入を許容する回答が約5割を占めた.また,行政による情報公開に対しては積極的な賛成が5割弱,賛成が3割を占めた.また,地震防災のために何らかの規制を導入することに対して8割弱の肯定的回答が得られた.ただし,「既成市街地への規制導入は現実(財政)的に不可能」とする意見(5割強)や,「所有不動産に対する規制の拒否感」(2割強)という意見もあり,金沢市で防災型土地利用規制の導入をする場合に障害となるものは,既成市街地での規制方法と私有財産規制に対する住民合意であることが見えてくる.
 規制を受容する施設としては,ガスタンク等の危険施設や病院・学校等の公共施設に対する支持率が非常に高い(9割前後).次いで,デパート・スーパー等の集客施設とマンション・アパート等の集合住宅が6割強,戸建て住宅の規制も4割の住民が許容している.
 また,住民属性と規制受容度の関係では,_丸1_近い将来の地震発生を危惧する住民 _丸2_地震防災に対して高い意識を持つ住民 _丸3_森本・富樫断層を認知している住民 ほど,土地利用規制の導入に肯定的であることが確認された.これは,活断層地震のリスクに対する理解,活断層に関する情報獲得が防災型土地利用規制を受容する上で不可欠であることを示している.
 各規制手法への支持率,各施設に対する規制導入への支持率,新規開発地/既成市街地の3つの観点から,防災型土地利用規制に対する金沢市民の受容度を整理すると以下のようにまとめられる.これらを考慮すると _丸1_新規開発・建築の公共施設および危険施設への土地利用規制・建築制限 _丸2_活断層や地盤条件などの情報提供による誘導 という手法が現時点で現実的な手法であると思われる.

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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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