日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

アンダマン諸島北西岸の2004年スマトラ沖地震に伴う地震性隆起
異種の高解像度衛星(IKONOSとQuickBird)のステレオ画像による計測
*石黒 聡士杉村 俊郎佐野 滋樹鈴木 康弘
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p. 94

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抄録

1.研究目的と背景
2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震に伴って,アンダマン諸島からニコバル諸島にかけての地域でどのような隆起沈降が起きたかを明らかにすることは,津波の被害を解明するのみならず,津波を引き起こした断層モデルを詳細に求め,津波のメカニズムと被害の関係を明確にするためにも重要である.地震前後の衛星画像に見られる汀線の位置の違いと,その場所のDEMから,隆起量を算定できる.しかし,アンダマン諸島は,現地測量,空中写真撮影による従来の方法でDEMを作成することが困難な地域であるため,衛星画像が唯一使用できるデータである.ステレオ撮影された衛星画像を用いるDEM作成は,同一の衛星が同一軌道上からの前視と後視により撮影したステレオ画像を用いて3次元モデルを作成し,計測するのが一般的な方法である.しかし,高解像度の衛星によるステレオ画像は,実際にはリクエストした特別な場合にしか得ることはできず,災害直後の迅速な解析が困難である.一方で,高解像度衛星による単画像の撮影は頻繁に行われるようになっており,異種の衛星により撮影された単画像を組み合わせることで,ステレオペアとみなすことができる.そこで,本研究では異なる衛星(IKONOSとQuickBird,以下QB)から撮影された衛星画像を使用して,DEMを作成するシステムを開発し,これを用いて,スマトラ沖地震に伴うアンダマン諸島北西部における地震性隆起の変位量を推定することを目的とする.

2.標高計測システムの開発
標高計測システムを開発するために,まず,空中写真測量による検証が可能なタイ国ナムケム低地を対象地域とした.ここではスマトラ沖地震に伴う津波によって,壊滅的な被害を受けた.津波被害と地形との関連を明らかにするためにも,この場所で詳細なDEMを作成することは重要である.2005年1月15日にIKONOSによって撮影された画像と,同1月2日にQBによって撮影された画像を用いた.両画像は異なるオフナディア角,アジマスで撮影されているから,両画像間には地物の標高に応じて視差がある.視差の大きさと標高は比例関係にあるため,視差をステレオマッチングで計測することでその場所の標高を算出できる.視差算出のためにC言語によるプログラミングを行った.この際のアルゴリズムには面積相関法を用いた.これにより,1 mメッシュの細密なDEM作成を可能にした.両画像の海岸線を一致させるなどの前処理を行った後,作成したプログラムを用いてDEMを自動作成した.作成したDEMを,空中写真測量で計測した3次元座標をもとに検証した.誤差は撮影した衛星の互いの位置関係に大きく左右される.今回は視差の生じにくい不利な位置関係だったにもかかわらず,標準偏差1.42 m(標高)の精度でDEMを作成できた.

3.アンダマン諸島北西部における地震性隆起量の算定
アンダマン諸島北西部に位置するReef Islandを地震直後に撮影したIKONOS画像(2005年1月10日撮影)とQB画像(2005年1月4日撮影)では,隆起によってサンゴ礁が大規模に干上がっている様子を確認できる.一方,地震前に撮影された衛星画像にはかつての汀線(旧汀線)が鮮明に見える.この旧汀線をトレースし,地震後の衛星画像に重ね合わせると,地震後の画像にかつて汀線だった線が引ける.つまり,その線上の現在の標高が,地震に伴う隆起量ということになる.
開発した標高計測システムを用いてReef IslandのDEMを作成した.旧汀線上の地震後の最低潮位からの標高は3.00 mであった.同じ地点の地震前の最低潮位からの標高が0.85 mであったことから,この場所での隆起量を2.15 mであると算出した.なお,DEM作成時の誤差は,衛星の位置関係が理想的であるため,計算上,標準偏差0.71 mと評価できる.従来の観測,研究で,アンダマン諸島は波源域となった海溝側の西縁で隆起,反対側のアンダマン海側で変化なし或いは沈降の可能性があるというように,傾動していることが報告されている.本研究の成果は同諸島北西部の,隆起したとされる地域において,その隆起量を計測したものである.

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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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