抄録
_I_.研究の目的と方法 モータリゼーションの進展に伴う人口と商業機能の郊外化によって、地方都市では都心の空洞化が進んだ。一方、東京では、減少が続いていた都心部の人口が1990年代後半に増加に転じるなど、都心への人口回帰現象も報告されている。本研究では地方都市における都心部への人口流入の実態を、金沢市を事例に考察する。転入者の属性を明らかにするために、1995年以降に金沢市都心部へ流入してきた世帯について,_丸1_世帯構成と社会経済的属性(就業状況・年収)に着目してその特性を明らかにし、_丸2_世帯類型別に前住地と前住地からの転出理由を把握した上で、居住地として都心部が選択された理由を明らかにする。さらに、_丸3_世帯類型と定住意識の関係から世帯類型ごとに都心居住に対する指向性に関して考察を加える。_II_.調査方法金沢市の人口動態は、市全体で見れば微増傾向にあるが、大学や県庁の郊外移転の影響を受け都心部では人口の減少が顕著になりつつある。金沢市都心部への流入人口の特徴を明らかにするために、1995年以降に金沢市の都心部へ都心部以外から転入した全世帯(4338世帯)を対象に郵送アンケート調査を行った。以下では、得られた有効回答655部(15.1%)の分析結果を報告する。_III_.転入世帯の属性 転入世帯の世帯構成比をみると、単身世帯と夫婦のみ世帯で63.3%を占め、世帯規模の小さい世帯の転入が目立つ。また、単身世帯では各年齢層が比較的均等に転入していきているが、夫婦のみ世帯では60歳以上(41.5%)、夫婦と子どもからなる世帯では末子6歳以下(48.7%)の世帯の転入が目立つ。転入世帯の世帯主には、ホワイトカラー職従事者が非常に多く、高収入の世帯も多い。また、「県内」を前住地とする夫婦のみ世帯・夫婦と子どもからなる世帯では、全国データと比較すると夫婦共働きの世帯の割合が高かった。_IV_.転入者の居住地移動パターンと都心居住理由転入者の前住地をみると「市内」を前住地とする世帯と「県外」を前住地とする世帯の数がほぼ等しく、高齢層の世帯で特に「市内」からの転入が多かった。前住地からの転出理由は「県外」からの転入者で就職・転勤が大半を占め、「県内」「市内」からの転入者は世帯タイプの違いにより転入理由にも差異がみられた。都心部への転入理由としては都心の利便性がもっとも重視されていた。また、高齢者は、「市内」「県外」の戸建てから都心の持ち家集合住宅に移動するパターンが目立った(表1)。一方、核家族は都心部に流入しても持ち家戸建てに居住する割合が高かった。_V_定住意識からみる都心居住志向 若年層や中高年層では、今後世帯構成や就業状況が変化経験する可能性があるため定住意識は低い。高齢層の世帯では、他の世帯に比べ定住意識が高い。これは、自立的な生活を送りたいと考える高齢世帯が多く転入してきているとともに、都心部にはその欲求を満たす施設が整っているからである。また、集合住宅居住者に着目してその世帯類型の内訳をみると、仙台市(榊原ほか,2003)の結果に比べて金沢市では核家族の占める割合が低い結果となった。_VI_.おわりに 現在、金沢市への転入世帯は多様なタイプが見られたが、都心部での定住意識が強いのは高齢世帯であった。今後もこの傾向が続けば、都心部の高齢者は増加傾向を示す。香川(1990)は都心部における人口高齢化の進行は非高齢人口の地区外転出によって引き起こされることを明らかにしているが、今後、高齢者の転入による都心部における人口高齢化の進行という現象がおこる可能性も充分考えられる。
