抄録
I 山岳と霊山
頂などに祭祀遺跡があり,開山伝承や後世の信仰施設をもつ山々が示すように,山岳は古くより崇拝対象とされた。そうした山岳は多数にのぼる一方,山岳としてまた信仰対象として,その形態,内容,認知などはさまざまである。こうした霊山とよばれる山岳の分布は全国一様でなく,また山岳信仰としての修験の拠点も出羽,白山,吉野,熊野,彦山など各地にある。霊山の成立には自然的基盤が前提となる一方で,山岳のシステムなどとは異なる体系がみられる。霊山自体,霊地から構成される複合的なものであるが,それらの配置から形成ならびに影響の分析を試みる。
II 地方霊山の分析
全国の主要な霊山として,『修験道辞典(東京堂出版)』に所載の351山を対象としてとりあげる。各霊山の位置と高度については,カシミールを利用して得た。高度100mごとに分けると,霊山は600-700mに最も多く,ほぼ半数が300-900mの間にある。それ以上の高度では数は逓減するが,1800-2100mではやや数が多くなる。また1000-1500m,1500m以上は大体同数である。また,地方別の高度別度数分布には,近畿地方を除き複数の極大がみられ,比較的に低山と高山のものがあることを示している。
III 霊山の分布の地域性
霊山の全国的な分布は,中部地方以東,近畿・中国・四国,九州のように,東日本,中央日本,西日本に大きく分かれる。東日本では1500m以上であることが多く,2000mを超える霊山も少なくない。中央日本では1500m以下で,とくに1000m以下のものが多い。西日本では多くは1000m以下だが,1500mを超えるものも多い。
霊山を高度から,1000m以上の低山と1000m以下の高山について分けると,低山と高山の分布地域は異なっている。低山の分布域は,八溝,房総,東海,奈良,岡山,四国東部,北九州と南九州などである。高山の分布域は,出羽,日光,戸隠,富士,白山,大峰山,美作,阿讃,九州山地などである。
IV 修験道社寺とのかかわり
霊山にかかわる主要な信仰施設として,上記『修験道辞典』所載の529社寺を対象とする。修験は本山派,当山派をはじめ,熊野山,金峯山,羽黒山,彦山などに大きな拠点がある。しかしその社寺の分布密度は奈良周辺でとくに高く,また上越,南関東,東北南部,瀬戸内,北九州にも中心がある。これらの社寺の数は,神社系,天台系,真言系のものがほぼ同数である。ただし近畿地方,とくに中国・四国地方では神社系は少なくなる。また近畿,中国・四国,および中部地方では天台系よりも真言系が多い。寺院系でも真言宗醍醐派は中部以西で多く,本山修験宗が多いのは関東のみで,東北ではほぼ同数である。
V 霊山の配置の影響
霊山の配置は上記の修験にかかわる施設とはやや異なるが,地方における霊山は組織化された修験とはやや異なる。自然の中でもとくに山は,生活の場であるほか,他界としての意味を持つ場であり,崇拝の対象として,ときに参詣する場となった。霊山と認知されるにその環境によるところが大きく,秀麗な山容,奇怪な岩肌,豊富な流水などをもつものが,霊山・霊峰として認識されたと考えられる。たとえば出羽・日光・戸隠・白山・石動山・富士・御岳・大峰山・石鎚山・英彦山・霧島などのように,各地方に霊山は存在するが,普遍的な天に対して霊山は各地の象徴としての意味がある。山岳を崇拝し祀る形態,大自然と一体化をめざす行は各地にあった。その中でとくに高山は登拝する御山参詣に,低山は霊場と巡礼につながったことが考えられる。