日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S105
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ブルー・ツーリズム導入による離島活性化の諸展開
*中村 周作
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抄録

1.はじめに
 水産庁の調べによると,今日,ブルー・ツーリズムを標榜する企画を持つ地域は,全国に1,161件ある1)。件数的に多い順に都道府県名をあげてみると,第1位が静岡県(計82件,全体比7.1%),第2位が兵庫県(73件,同6.3%),第3位岩手県(65件,同5.6%),第4位福岡県(64件,同5.5%),第5位北海道(61件,同5.3%),以下,東京都(54件,4.7%),長崎県(48件,4.1%),熊本県(48件,4.1%),島根県(46件,4.0%),愛媛県(46件,4.0%)の順となる。こうしてみると,ブルー・ツーリズムの活動が盛んな地域は,都市住民が足を伸ばしやすい大都市圏近接地域を取っ掛かりとして,今や臨海地域を中心に全国各地に広く展開していることがわかる。
 水産庁の提唱でグリーン・ツーリズムに遅れてスタートしたブルー・ツーリズムではあるが,ようやく普及活動の時期を終え,質的な向上を目指す段階にきたと言えよう。ここで言うブルー・ツーリズムの質的な向上とは,企画をさらに多様化させて,客のニーズに対応していくというレベルでの話はもちろんであるが,一方で,行政や漁協といった上から企画立案し,全面的運営を行う段階から,地元住民の参加意識を高め,地元住民がより積極的にその運営に関わっていく,すなわち,地域全体でブルー・ツーリズムの活動を推進していくというレベルでの質的向上が特に重要であり,この下からの活動推進が発生しない限り,上からのかけ声だけに終始して,やがて,淘汰,消滅してしまう可能性が高い。
 
2.壱岐市勝本地区の事例
 発表者は,先に壱岐市勝本地区におけるブルー・ツーリズムの展開とそれが抱える課題について発表した2)。当地区では,ブルー・ツーリズム導入のために新たに作られた漁協観光部が運営主体となって企画の拡大・多様化に努めた結果,年々観光客数が伸びるなど,着実に成果をあげてきた先進地域である。しかし,ブルー・ツーリズムに関する地元住民に対するアンケート(866戸悉皆調査を実施,有効回答数258)では,実際に地元住民が,ブルー・ツーリズムの企画内容を理解するために必要と思われる自分自身の企画参加が30件(1割強)しかなかった。その結果,ブルー・ツーリズムの推進に賛成という意見が5割強,反対1割弱,よくわからないが3割もあり,「ブルー・ツーリズムで都市部から客を集め,リピーターを増やして地域のよさをアピールし,まちを活性化する」という地元住民の意識高揚,そこからくる企画への積極的参加という点では,まだまだ課題が多いという調査結果が得られた。

3.地域に根付いたブルー・ツーリズム推進へ向けて
 発表者は,以上のような壱岐市勝本地区における事例研究を受けて,より小規模でも,地元住民が積極的に活動に加わっている,地域に根付いたブルー・ツーリズムについて模索している。本発表では,地元インストラクターの養成や漁家民泊を進めている長崎県松浦市青島地区など,いくつかの事例について報告したい。


1) (財)漁港漁場漁村技術研究所 2007.漁村へGO.http://www.gyoson-go.com/
2) 中村周作 2005.ブルー・ツーリズム導入による漁村振興の展開 -壱岐市勝本地区の事例-.人文地理学会大会研究発表要旨集. 同編 2006.『日向・入郷地区へのブルー&グリーンツーリズム導入と展開の可能性を探って -先進事例地域,壱岐市勝本地区の実 態調査をもとに-』宮崎大学教育文化学部経済地理学ゼミ研究報告書:172-182.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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