日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S107
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石垣島における中高年Iターン者の増加と旧集落への移住パターン
*石川 雄一
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キーワード: Iターン, 石垣島, 中高年, 離島
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抄録

国土全体の人口が減少に向かう一方で、高度経済成長期以降、長く人口流出地域であった離島のなかには、転入超過によって人口が増加する地域が現れ始めた。まだその勢いは強くないが、今なお人口流出に悩む離島の自治体のなかにはこうした動向に注目し、期待を寄せる動きもみられる。これまで離島や山村を含む国土縁辺村落地域は、周辺村落→周辺小都市→大都市中心市→都市圏郊外へと連鎖する人口移動プロセスの起点に位置し、人口圧や都市の吸引力から生じる流出が課題であった。しかし、送出地域の人口圧が減じ、この流れが弱まるなかで新たな現象が生じてきた。団塊の世代の退職や高齢化の進展によって、これまでのこうした移動プロセスのなかで人口が滞留し増加し続けていた都市圏郊外で、離職を機会に、郊外脱出の動きが急激に生じつつある。その一部は超高齢化をも視野に入れた都心回帰として現れているが、一方では都市圏を離れる反都市化の動きがある。
本発表では、成熟した都市圏郊外の社会構造の質的変化に伴い、増加するであろうと予測される離職者のIターンの動向を視野に入れて、すでに転職・離職などによって生じたIターンのIターン着地点側からの、定住のプロセスに関する調査をもとにした報告をおこなう。
沖縄県の石垣島は離島の中で最も高い人口増加数を示す。2005年国勢調査時の人口は45,183人で、2000年からの増加率では4.3%の増加を示した。また統計からUターンとIターンを区分することは困難であるが、2000年の国勢調査時の人口移動集計をみると、県外からの人口流入が2,869人で県内他市町村からの2,647人を凌ぎ、流入全体の20.6%を占めた。
また、地元でマンションバブルと称されている、この数年間の市街地縁辺部での住宅供給数の増加は、こうした人口増加率を上回り、行政当局も正確な実態を把握しきれていない人口流入や、マンスリー・マンションなどへの短・中期移住者も急増中である。
調査対象の吉原・山原地区はともに石垣島北岸の海岸段丘面に立地する集落である。大字では湾内クルーズ観光の拠点となっている川平に属する。吉原地区は戦後の食糧難の時代に、宮古島からの移住者が切り開いた集落で、1954年に48世帯が入植したのがはじまりである。当時はマラリヤ汚染地域であったが、島内周回道路が完成したことによって、石垣島北岸一帯に同様な沖縄本島や宮古島からの開拓者の集落が誕生する。吉原地区は、そのなかでも最も石垣市街に近く、車で約30分、都会からの移住者からみれば、それほどの距離でないところに立地する。現在でも、開拓当初とほぼ同数の世帯数が入居するが、そのうちの50%が他県出身者の世帯で構成される。10年ほど前から他県出身者が増加し、それらの世帯主の年齢は20-30歳代が25%、40-50歳代が45%、60歳以上が30%である。
東に隣接する山原地区は、吉原地区農家の開拓地で、当初は集落がなかった。その意味では当地区は旧集落とはいえないが、2001年の農振地域解除後、別荘・ペンション風の瀟洒な住宅が建ち始め、現在約30戸の世帯がある。全世帯が他県出身である。
両地区ともに、出身地では首都圏、京阪神圏が多く、気候風土のかなり異なる北海道からの移住もみられる。またほとんどが不動産業者を通さずに、地権者から直接土地を取得している。移住の理由はさまざまであるが、起点からの押し出される要因としては離職、転職、家族の誘い、着地側の吸引要因としては、離島・温暖な気候への憧れ、マリンレジャーなどがあげられる。
また集落側から移住のプロセスをみると次のようになる。旧住民の高齢化が進展するなか、開拓二世が就職のため石垣市街や島外へ転居。開拓一世が留まるなか人口減少、空き家が増加。そこに新たな住民として口コミで空き不動産情報を得た他県出身者が入居。という流れである。
Iターン者側からの移住のプロセスをみると次のようになる。移住を考え地域の情報を入手、もしくは旅行で頻繁に訪問するなかで、宿泊先や観光先等から各種情報を入手。さらにマンスリー・マンションなどでの短期滞在を試みる。現地で新たにできた知人などから不動産情報を入手。という流れである。
調査した他県出身者の多くは、十分な予備知識を持って移住に成功した。しかしその一方でリタイヤ組みも存在する。定住を可能にしたのは、こうした移住者の強い動機と、さらに農村的景観を有するが、開拓集落・新規の集落として古い因習に束縛されることが少なかったことがあげられる。また離島といえども人口規模から地方都市並みの生活基盤が充実していることも定住の要因としてあげられる。
ただし移住者の多くは、元気な中高年であるが、将来の超高齢化とそれに関連する高度な医療機関へのアクセスという点では、人生最後の住まいとして離島を選択するには、大きな課題が残っている。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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