日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S108
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離島におけるIターン者の特性と人口変動に与える影響
*作野 広和
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抄録

1 はじめに
 近年,中山間地域をはじめとした条件不利地域において集落が消滅している事実がにわかにクローズアップされはじめた。かつて,過疎化により集落機能が成り立たない「社会的空白地域」の存在が問題視されたが,今日では「人口空白地域」が生まれようとしている。現時点では人口が完全に無くならないまでも,近い将来消滅する可能性がある「限界集落」という用語も社会的に定着しつつある。わが国の総人口が減少傾向に向かう中,離島を含めた条件不利地域における人口減少は特に著しいといえ,地域の存続すら危ぶまれている。
 一方で,都会の喧騒を離れ,自然が豊かな地域で暮らすことを希望している都市住民も少なくない。また,退職後に田舎暮らしを望んでいる団塊の世代も多数いるとされている。こうした動きを受けて,農林水産省も「都市と農山漁村の共生・対流」をキーワードに移住や二地域居住の促進に努めている。
 このような社会的背景を受け条件不利地域へのIターンもみられるようになった。とりわけ,離島については島外への人口流出が続く中で,Iターンによる流入が人口の社会減を多少なりとも抑えることに寄与している。また,Iターン者の流入により地域資源の発掘や新産業の創出など新たな地域振興策が見いだされるなどの報告が相次いでいる。このように,Iターン者は脚光を浴びる一方で,各地域においてはその実数すら正確に把握されておらず,研究の余地は多い。
 本研究においては離島におけるIターン者の特性を把握した上で,地域人口に与える構造的な影響について明らかにする。研究対象地域は島根県隠岐郡に所属する西ノ島町および海士町とした。隠岐郡は隠岐諸島全域をエリアとし,島根半島の北約50kmに位置している。両町は,定住政策とりわけIターンの受け入れに積極的で,研究対象地域として適切であると判断した。

2 離島におけるIターンの状況
 全国260の離島が所属する市町村のうち,過疎指定地域となっている56市町村に対して郵送アンケート調査を行った。主な結果としては(1)離島地域ではIターンのメリットを意識した支援事業を行っている,(2)それにもかかわらずIターン者数を把握している市町村はほとんどない,(3)Iターン者と地域住民との間における意思疎通の難しさが問題となっている,などの結果が得られた。

3 研究対象地域におけるIターン政策とIターンの実態
 研究対象地域である西ノ島町と海士町ではそれぞれ積極的なIターンの受け入れ政策を行っている。西ノ島町では「シルバーアルカディアプラン」と称して宅地造成を行い,50歳以上の夫婦を対象に家屋の斡旋を行ってきた(定住者30世帯,60名)。また,漁業後継者確保対策事業では雑誌等に求人広告などを掲載し,若者を中心にIターン移動を促している(定住者:29世帯,74名)。
 これに対して,海士町では産業振興政策と住宅整備事業を行っている。その結果,2005年末時点で人口が社会減から社会増へと転換した。

4 離島Iターン者の特性
 両町のIターン者全てに対してアンケート調査および聞き取り調査を試みた。この結果,54世帯から回答が得られた。主な結果は以下の通りである。(1)Iターン移動のきっかけは「新聞・雑誌の広告」「インターネット」などメディアを介している世帯が半数以上である,(2)Iターン移動した理由としては自己の夢ややりたいことをかなえるといった自己実現タイプが過半数を占めている,(3)Iターン者は世帯の経済状態に対して比較的満足している,などの結果が得られた。

4 Iターンが離島の人口変動に与える影響
 以上のように,両町ではIターンを対象とした定住政策を積極的に行った結果,Iターン者の流入が顕著にみられ,定着している。このようなIターン者の流入が各町の将来人口にどの程度の影響を及ぼすのかについて,コーホート変化率法で検証した。その結果,Iターン者が順調に流入し続けたとしても町人口が減少することに歯止めはかからないことが判明した。ただし,Iターン者の流入により高齢化を遅らせることには寄与する。このように,Iターン者の流入は地域人口の構造をダイナミックに変革するには至らないが,過疎・高齢化を鈍化させる効果があると認められる。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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