抄録
平成の大合併が終わって1年あまりの時間が経過した.平成の大合併後,国は新たな政府間財政関係のあり方を模索し,市町村は変化する政府間財政関係をにらみながら,それぞれの行財政運営を模索することになった.
現段階(2007年7月)では,2005年度分までしか決算資料が公表されておらず,後述する新型交付税の導入などの流動的な要素もあるため,平成の大合併後,政府間財政関係がどのように変化しつつあるのを実証的に分析・議論することは難しい.本報告では,幾つかの興味深いデータを取り上げながら,近年の地方交付税改革の動向を紹介することで,シンポジウムでの議論を喚起したい.
近年の政府間財政改革の基本的な方向は,従来,集権的分散システム(=税源は国が保持し,仕事(歳出)は主として地方自治体が実施.両者の差は政府間補助金で調整)から分権的分散システムにシフト(仕事に見合った税源を地方自治体に委譲)させていこうとするものである.この時に問題となるのは,財政力の低い地方自治体である.これらの自治体は税源を委譲されても,わずかな収入増しか見込めず,税源委譲に伴って従来の政府間補助金がカットされることによる収入減の影響の方がはるかに大きい.
平成の大合併後に焦点となっているのは,小泉前政権の時代に手をつけることができなかった地方交付税制度の抜本的な改革である.現在,国は新型交付税制度を創設(本年度より導入予定)し,順次,既存交付税から新型交付税にシフトさせていくことで改革を進めようとしている.新型交付税では測定単位を人口と面積だけにし,補正係数の簡素化を図った上で,「1人当たりの平均的歳入」を保障する,としている.そこでは規模の経済性や地理的条件の違いによるコスト高の多くは捨象されることになるが,このような改革案に対しては地方圏の地方自治体からの反発も強く,当面,条件不利地域等の対策として地域振興費(仮称)という形で特別措置を設け,従来水準に近い額の財源を保障することで落ち着くことになった.
地理的な視点からみて,交付税改革をめぐる一連の政策議論で問題視されることは(1)地方交付税(基準財政需要額)の積算内容の精査が十分になされていない,(2)検討・説明材料として地図資料が十分に整備・活用されていない,という2点であり,そのために地理的条件の違いによって行政コストやサービス供給のあり方が異なる,ということが軽視される結果になっている.行き過ぎた,あるいは,不適切な補正制度や需要算定を是正することは必要であるが,条件の違いを配分に反映させるための調整制度は今後とも必要である.こうした条件の違いを分かりやすく,説明責任を伴った(恣意性の入らない)形で配分方式に組み込むための制度設計に,我々が貢献できることは少なくないように思われる.