日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S504
会議情報

「平成の大合併」に伴う環境行政の変化
愛知県・岐阜県・三重県の合併市町村を事例に
*栗島 英明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに
 市町村合併のメリットを記した総務省HPによれば、「サービスの高度化・多様化」や「広域的観点に立ったまちづくりと施策展開」などが実現されるとされ、環境分野では、「環境専門組織・職員の配置」や「ごみ処理施設の建設等に係る調整の円滑化」や「施設処理能力の拡大や統一的な分別収集による有効なごみ処理対策の実施」などが挙げられている。
 一方で、「先進的な取組みを行ってきた自治体の事業の合併後の縮小・廃止」や「合併を契機としたISO14001の返上」といった事例報告もなされている(三重県環境森林部2005)。また、合併時には様々な行政システムの統合や新しいシステム構築が伴うが、ともすれば住民に直接的な影響が生じにくい環境分野のシステム統合・構築は後回しにされがちである。
 本研究では、「平成の大合併」に伴う市町村の環境行政の変化について、愛知県・岐阜県・三重県の合併市町村に実施したアンケート調査・聞き取り調査をもとに考察を行う。

2.環境専門の組織と職員の変化
 一般的に自治体規模が小さいほど、環境専門の組織・職員の配置が難しく、自治体規模が大きくなるにつれて扱う環境分野ごとに組織・職務が細分化される。合併による規模拡大により、組織や業務の拡大・細分化が見られた。組織変化のパターンは以下の通りである。この変化は、一般的には(1)→(4)の順で市町村規模が大きくなっている。
(1)専門の組織はないが、環境専門職員が配置される
(2)やや環境に特化した課が設置される
(3)環境専門の課が配置される
(4)環境専門の部が配置される
 一方、合併の影響として、こうした環境専門組織がどこに配置されるか、という点がある。本庁舎(分庁舎)に配置される例がもっとも多いが、ごみ処理施設内に配置される場合もある。また、市町村領域が広域な場合やごみ処理体系が同一市町村内で異なる場合(後述)では、総合支所や複数のごみ処理施設に分散配置される例が見られる。

3.廃棄物行政の変化
 合併前は多くの市町村が共同処理を選択していたが、合併後は、以下のような変化が見られた。
(1)合併前後での変化なし
(2)共同処理組合から離脱、もしくは解散
(3)1つの自治体内で複数の体系を持つ→個別と共同処理の併用、2つ以上の共同処理を併用
 (2)のうち、別の処理体系であった市町村が合併した自治体の中には、老朽化した一部の施設を閉鎖し、処理の集約化を行う例も見られた。また、(3)では、同じ自治体内であっても、旧市町村ごとに分別が異なる例が多く、施設的制約やこれまでの住民の慣習を考えて統合化できない市町村が多い。

4.EMSおよび地球温暖化対策
 EMSの中で最もポピュラーなISO14001認証取得は県による差異(特に三重県)が大きく、合併による影響も三重県が大きい。特に合併を機に第三者認証を返上し、独自のEMSの導入や自己適合宣言に移行する市町村が多い。もともと認証取得数が多くない岐阜・愛知では合併による影響は少ない。その他、環境報告書やグリーン調達については、市町村レベルで導入されている例は少なく、また合併によってそれが促進された例もない。多くの自治体で、そのような取り組みは不要と考えられている。
 地球温暖化は、近年注目されている環境問題であったが、市町村レベルでこれに取り組んでいる例はそれほどなかった。率先実行計画は、すべての自治体で作成することが義務付けられているものの、新設合併の自治体ではなかなか策定されていない。これは率先実行計画が、環境基本計画後に策定されることになっており、環境基本計画が未だ策定されていない市町村も多いためである。そして環境基本計画が策定されていない最大の理由は、上位計画である総合計画が策定中であるためである。
著者関連情報
© 2007 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top