抄録
研究の背景
2000年前後に整備されたまちづくり三法(改正都市計画法、中心市街地活性化法、大規模小売店鋪立地法)は十分な機能を果たせず、各地の中心市街地では空洞化が進行した。昨年まちづくり三法が改正され、それらが実行に移されようとしている。まちづくり三法の今回の見直しは、日本では環境への負荷の小さな都市構造への転換を含めてまちの郊外化を抑制し、小売機能をはじめとして住居機能、業務機能といった都市の諸機能を中心市街地に再集中させるコンパクトシティの考えに基づいたものとなっている。今回の見直しでは、都市計画法の改正による大規模集客施設等の強力な立地調整機能とともに、中心市街地活性化法の改正による中心市街地活性化に向けた新たな多様な支援策の導入が大きな柱である。
中心市街地の現状を振り返ると、まちづくり三法の改正の背景には三つの影響が横たわっている。第1に、人口減少社会の到来と高齢化の加速である。これは日本全体に共通して及ぶ影響であり、従来のまちの郊外化に歯止めをかけ、確実に迎える高齢社会への対応がきわめて大きな課題となっている。第2に、持続的な自治体運営の継続性の問題である。中心市街地は自治体にとって安定した税収を得る重要な場所である。佐賀市では市域面積の約2%に当たる中心市街地から約20%の固定資産税を得ているため、中心市街地の衰退は軽視できない。中心市街地の衰退は地方自治体の大きな不安定要因であり、中心市街地を活性化させ、地価の保持が深刻化している。第3に、コミュニティの維持の重要性である。今後のコンパクトシティの実現に向けて高度にインフラが集積した中心市街地は重要な居住地として機能することが期待されている。また中心市街地には歴史や文化が蓄積し「まちの顔」であるとされる。
中心市街地活性化法の改正により、基本計画の認定制度の創設や支援措置の拡充、選択と集中の強化、国・市町村・事業者及び地域住民の連携強化などの内容が盛り込まれた。2007年2月8日に富山市と青森市の中心市街地活性化基本計画が最初の認定を受け、5月28日現在では全国で計13の基本計画が認定されている。九州地方では熊本市、八代市、豊後高田市、宮崎市の4つを数える。九州地方においては福岡市への一極集中が進展する一方で、この認定計画にみられるように県庁所在都市クラスの中核都市においても中心市街地の活性化が課題となっている。本報告では、佐賀市をはじめ佐世保市、熊本市などを事例として取り上げ、中心市街地の個性と活性化策に焦点を絞り、都市の持続可能性について述べたい。
都市の個性と持続可能性
佐賀市は早くから中心市街地の活性化に取り組んできた。長崎街道沿いに展開した旧来の中心商店街では空き店舗が目立ち衰退が進み、市街地再開発事業によって大型商業施設「エスプラッツ」を建設して活性化を図ろうとした。しかし、まちづくり会社は倒産し、2003年2月に閉店に追い込まれた。その一方で、市街地を取り巻く幹線道路沿いには各種の量販店・大型店が連担し、郊外型のショッピングモールも市街化調整区域や準工業地域に相次いで開店した。その後、佐賀市では「中心市街地活性化基本計画」を2005年1月19日に再提出したが、この間にも中心市街地の衰退はなおも続いた。佐賀市は商業床を購入し、2007年にはスーパーマーケット以外に、カルチャーセンターや市の子育て支援センター、市民活動支援センターといった公共公益的施設の開設を計画中である。エスプラッツを中心市街地活性化の基点施設と位置づけ、「住む人」「来る人」のための施設として活用を図ろうとしている。従前のエスプラッツと異なる点は、商業施設利用よりもむしろ街づくりの核施設として市民の交流を図るサービス機能が多く入居することである。佐賀市の活性化策は中心市街地と郊外の強力な大型店との対立構図から距離を置き、中心市街地の基点を市民の活動拠点として、また子どもや高齢者向けの施設として活用を図ろうとしている点を鑑みれば、都市機能の集積の弱い佐賀市に相応しい活性化策として評価できるものであると考える。
シンポジウム当日は九州諸都市の中心市街地活性化策とその現状について述べたい。