日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 403
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河川流域の水環境保全・再生・管理に関する地理学的研究
*小寺 浩二清水 裕太中山 祐介
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キーワード: 水環境, 保全, 再生, 管理, 河川流域
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抄録

1.はじめに
 自然環境と人間活動の共生を考える上では河川流域の水環境を保全することが重要で、そのための研究が多くの分野で進められてきた。日本地理学会でも、「水環境の地理学研究グループ」(1999年4月~2007年3月)の研究会で繰り返し議論が行われた。その過程で、地理学的手法や地理学的視点の有効性を確認・整理し体系化することの必要性が示され、「河川流域の水環境データベース」に関する研究が提言されて(小寺ほか,2000),本邦主要河川に関する様々な研究事例が提示された。また、「水環境再生」の視点から、「都市域の水辺空間再生」に関しても多くの研究が進められてきた(小寺ほか,2005など)。その結果、GISを活用した小流域原単位法の有効性が確認され、関連する研究が展開されてきた(菊池・小寺,2007など)。
 本研究では、それらの成果をふまえた上で、「流域管理」における地理学的手法・視点の有効性について検討を加え、今後の研究の方向性について提言する。

2.「河川流域の水環境情報DB」とGIS
 様々な公的機関により種々の水環境情報が整理・提供されているものの、流域単位で統一された形式で入手できるものは少なく、情報量の割に活用できるものが限られている。特に、都道府県以下の行政単位では、情報の質・量に差異が多く、流域ごとの水環境情報には違いが大きい。
 また、GISを用いた空間解析を行うために水環境情報を重ねあわせる様々な数値情報のほとんどは行政単位で提供されているため、流域単位で抽出し直す必要があり、汎用的なデータベース構築へのステップは大きい。主要河川における事例を再検証し、プラットホーム形式の再構築をはかる必要がある。

3.GISを用いた小流域原単位法解析
3.1.汚濁負荷
 行政単位で得られた統計資料を基に小流域単位で切り出した情報から、原単位で汚濁負荷を解析した研究事例(菊池・小寺,2007、中山・小寺・清水,2007など)により、有効性が確認された。ただし、計算による汚濁負荷の算出にあたっては、面積比を用いた単純配分や基礎とする行政単位に関する再検証が必要である。また、水質観測結果を用いた実測値による汚濁負荷の算出についても、流量データのない地点の流量値補間に関する基礎的研究が今後求められる。
3.2.小流域原単位法の発展
 汚濁負荷解析に限らず、様々な流域水環境の解析に当たって、小流域を基本ユニットとする解析法への発展が必要である。そのためには、古くから行われてきた地理学的手法を再検証し、主に、方眼法による解析結果を小流域単位に変換する方法について検討することがまず求められる。そのほか、様々な地理情報を小流域単位で表現するための基本的な手法を確立し、それに基づいた事例研究を展開しなければならない。

4.流域管理への活用
 将来の流域管理に本手法を活かすためには、過去の水環境変化について環境復元を行い、モデルを適用した解析を行った上で、水環境再生への方向性を見いだす必要がある。さらに、流域管理の指針を定めてシミュレーションを実行し、モデルの有効性を検証していかなければならない。

5.おわりに
 今後は、具体的な流域を絞り込んだ上での実証的研究が必要で、その結果を踏まえて個別の解析手法についても精度を上げる努力を進めていきたい。地理学会の大会を議論の場として期待している。

参考文献
小寺浩二ほか(2000a):「水環境」の地理学と河川流域データベース. 日本地理学会「水環境の地理学研究グループ」第4回研究集会資料.
小寺浩二・住野静香・後藤武正・清水祐太・徳原知靖(2005):都市の水環境再生に関する地理学的研究-水文地理学の視点から-. 日本地理学会発表要旨集, 67, 275.
菊池達郎・小寺浩二(2007):霞ヶ浦流域の流域汚濁負荷に関する研究-小流域原単位法による恋瀬川の解析を中心に-.日本地理学会発表要旨集, 71.
中山祐介・小寺浩二・清水祐太(2007):阿武隈川上流域および釈迦堂川流域の水環境保全・再生に関する地理学的研究(2)-小流域原単位法による汚濁負荷量解析を用いて.日本地理学会発表要旨集, 71.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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