日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 424
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都市化影響を含む観測所周辺の土地利用を考慮した近年の日本における気温変化傾向の地域性・季節性
*西森 基貴桑形 恒男石郷岡 康史村上 雅則
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抄録


 日本における1898~2004年の年平均気温の長期上昇傾向は1.06±0.25℃/100年(気象庁:異常気象レポート2005)と同期間における世界平均0.77℃/100年を上回っており,このことが「地球温暖化」が日本では既に顕在化しその影響評価と適応・対策が急務とされる根拠となっている。しかしながら近藤(http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/:以降は近藤HP)は,日本や世界のこれら気温変化値は観測所周辺の都市化影響と露場の陽だまり効果により過大評価であるとしている。気象庁は上記の日本平均気温の算出に当たり,統計切断がなく都市化影響もないと判断した気象官署17地点を用いているが,Samejima et al. (2007:J. Agric Meteorol.)は,測定場付近に建造物がない農業研究圃場では,近年でも気温上昇はほとんど起こっていないこと指摘した。また藤部(2007:春季大会発表要旨集p157)は,気象官署とアメダス観測点周囲の人口密度と気温変化率の関係から,たとえ小さな町村においても,その周辺の人口密度が増すほど気温上昇率が大きいことを示した。そこで本研究では,観測所周辺の土地利用を考慮した都市部/農村部における気温変化傾向の相違の比較から,現在用いられてる観測気温データに含まれる都市影響を詳細に評価した上で,農耕地における近年の気象環境変動の地域・季節別の特徴を明らかにし、耕地気象環境の変動におよぼす温暖化の影響の実態を解明することを目的とする。
 用いたデータは,気象庁による上記17地点ほか山岳観測点を含む気象官署ならびに比較的農村部に多いアメダス観測点,および農耕地やそれに類する所で測定されている北海道・九州沖縄など各農業研究センターの圃場データである。解析地点の選定にあたっては,気象庁自身による統計の接続可否,近藤HPの現地調査報告,高解像度衛星画像(グーグルマップ)による図上判定を行った上で。国土数値情報により観測点近傍の土地利用分布の抽出を行い決定した。解析は主にアメダスデータを利用可能な1980年以降の線形トレンド解析を中心としたが,都市影響の定量化のための対比データがある場合には1950年頃以降の同様な解析も行った。
 予備的なトレンド解析の結果,気象庁選定17地点のうち,10地点には都市化の影響が見られたため,近藤HPも参照し新たに農村部に多い気象官署・アメダス12地点を加えた19地点を選定して,日本および地域別の北・東・西日本の特徴を見た。1980年以降25年間における昇温トレンドとその差から見た都市の影響は,日最低気温では春秋に大きく現れ,大都市7地点では0.3~0.9℃,気象庁17地点では0.1~0.4℃である(図1上)。いっぽう日最高気温では夏に顕著であり,大都市では0.0~0.7℃,気象庁選定地点では0.0~0.3℃である(図1下)。郊外19地点の昇温は,最低気温では月別に0.3~1.4℃(図1上:年平均では1.05℃),最高気温では2月と 7月に大きく0.5~2.4℃(図1下:年平均では1.30℃)である。季節別に見ると全国的には2月で,加えて東日本では7月での昇温が,特に最高気温で顕著である。次に2.で選定した19地点における昇温トレンドの地域性を見ると(図略),北日本では,8月と12月に降温傾向にあった。また東日本では,暖候期(7~9月)のトレンドは最高>最低で日較差が拡大しているものの,西日本では気温上昇の季節性は小さく,また最高・最低の相違も小さいことがわかった。さらに夏季の最高気温の上昇傾向から,近年では総観的な暑夏を都市が増幅している傾向が示唆された。

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