日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 427
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フィリピンにおける雨季入りに関連した循環場の特徴とその年々変動
*赤坂 郁美森島 済三上 岳彦
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抄録


1. はじめに
 フィリピンは西部北太平洋夏季モンスーン地域に属しており,平均的にフィリピン周辺で南西モンスーンが開始する5月中旬頃に雨季入りすることがわかっている一方で(Wang and Lin 2002; Akasaka et al., 2007),雨季入りの年々変動に関する研究はあまり行われてこなかった.フィリピンでは雨季の降水が重要な水資源となっており,雨季入りの年々変動は農業への影響も大きいため,その詳細な調査が必要とされている.そこで赤坂ほか(2005)は,1961-2000年までの39地点の半旬降水量データにEOF(Empirical Orthogonal Function)解析を行い,各年の雨季入りを定義した.この結果,1970年代後半以降に雨季入りの遅れが目立つようになり,その年々変動も大きくなっていることがわかった.しかし,雨季入りの年々変動に関連する循環場の特徴については調査されていないため,本研究ではこれを明らかにすることを目的とする.
2. 使用データ及び解析方法
 赤坂ほか(2005)で定義された1961-2000年の雨季入り半旬の結果と41地点の半旬降水量データを使用する.雨季入りの年々変動と循環場との関係を考察するために,NCEP/NCAR (National Centers for Environmental Prediction / National Center for Atmospheric Research)の2.5ºグリッドの再解析データ(Kalnay et al. 1996)から850hPa面の高度と風系のデータを半旬平均値にして使用した.解析対象期間は1961-2000年である(ただし赤坂(2005)で雨季入りが定義されなかった1999年を除く).
 まず雨季入り前後の循環場の変化に関して,その時空間的特徴を明らかにするために雨季入り前1半旬と雨季入り半旬の等圧面高度の空間偏差データにEOF解析を行った.次に各EOFモードに関連する循環場のパターンを調べるために,時係数が±1を越える年の等圧面高度と風系,地点降水量についてコンポジット解析を行った.
3. 結果と考察
 EOF解析の結果,上位3成分で累積寄与率が60%以上となり,これらが雨季入り前後の循環場の特徴を表す主要なモードであると判断した.第1EOFモード(EOF1)の因子負荷量分布は雨季入り時にインドシナ半島~南シナ海北部にかけて等値線が密になっており,海洋大陸とインドシナ半島付近では符号の南北コントラストがみられる(図1).コンポジット解析の結果から,EOF1が正の年はインドシナ半島~南シナ海北部にかけて発達するモンスーントラフの深まりが, 負の年は亜熱帯高気圧南の偏東風波動が雨季入りに関連していることがわかった(図略).平均的な雨季入り前後の循環場では亜熱帯高気圧の北東へのシフトと南西モンスーンの開始が雨季入りに関連する作用中心であることがわかっているが,年々変動の観点からみると偏東風波動もその一つであることが明らかになった.また雨季入りが最も早い(遅い)年にはEOF1モードの時係数が-1以下(+1以上)の年が対応しており,EOF1は雨季入りの早さを既定するモードであると考えられる.今後はEOF2,EOF3モードも含め各モードに関連する循環場のパターンと雨季入りの年々変動との関係を調べると共に,雨季入りに関連する循環場の形成要因を調べるために海面水温変動などについても解析を行う必要がある.

参考文献
赤坂郁美・森島済・三上岳彦(2005) フィリピンにおける雨季入り・雨季明けの経年的特徴. 2005年地理学会春季学術大会予稿集: 78.
Akasaka, I., Morishima, W. and Mikami, T.. 2007. Seasonal march and its spatial difference of rainfall in the Philippines: Int. J. Climatol 27: 715-725.
Kalnay,E. et al. 1996. The NCEP/NCAR 40-year reanalysis project. Bull. Amer. Meteor. Soc.77: 437-471.
Wang, B. and Lin, H. 2002. Rainy season of the Asian Pacific summer monsoon. J. Climate 15 :386-398.

図1 1961-2000年における上) 雨季入り前,下) 雨季入り時の850hPa面高度に対するEOF1の因子負荷量分布.実線(破線)が正(負)を示す.等値線間隔は0.1.

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