抄録
2000年以降,本格的な人口減少社会の到来を目前に控え,就業意欲が旺盛な既婚の女性労働力をいかに労働市場に取り込むのか,大きな課題となっている.家事や育児のために家庭外での就業が困難な彼女らにとって,通勤時間が実質的に皆無となる在宅勤務は,そうした問題を克服できる有効な勤務形態として注目される.
在宅勤務に関する学術的研究では,新しい情報技術を利用したテレワークの導入可能性が検討されてきた.これらの研究では,電子メールやインターネットなどの情報技術が普及するならば,定型的業務が対面接触からテレコミュニケーションに代替され,テレワークが新たな就業形態として発達すると予見された.また,在宅勤務は,職住一致の職住関係を創出するため,通勤時におけるラッシュを伴う長時間(長距離)通勤の是正策としても注目された.
しかしながら,既存研究では,在宅勤務をいかに導入すべきかを論じた経営学的な検討が多く,在宅勤務者の基本的な属性や分布,在宅勤務を開始するまでの職歴・居住経歴など,地域事例に即した地理学的研究は極めて少ない.
そこで本報告では,東京大都市圏郊外を事例として,既婚女性の在宅勤務者に対するアンケート調査を実施し,彼女らの職歴や居住経歴などから,在宅勤務の拡大可能性を検討する.