抄録
I.はじめに 接峰面図は古くから地形の概略をつかむ手段として広く用いられてきた.この接峰面図は,紙地図上に描かれる作業仮説図であったが,最近ではパソコンの普及とDEMデータの充実により,DEMから接峰面図を作成し,それを用いた研究成果が見られるようになった.例えば中山(1998)は,DEMで作成した接峰面図の接峰面高度と現地表面の差を侵食量の近似値とみなした.しかしながら,パソコンでDEMを計算し接峰面図を作成する作業は,専門的な知識が必要であるため一般的に普及しているとは言い難い.そこで本研究では,オアフ島南東部に分布するタフリングを例に,画像処理ソフトを用いて接峰面図から侵食量を簡単に算出する方法を提案する.また,これと平行して,DEMをGISで操作して接峰面図を描き,侵食量を算出する方法ついても検討した.なお,本研究では侵食の尺度を量ではなく割合で示す.
II.解析方法
1.画像処理ソフト(PhotoShop)による解析方法
まず,クレーターごとに谷埋め接峰面図を描いた.今回谷埋めの間隔は100mと1000mとした.なお,等高線の間隔は地形図の制約上40フィート毎とした.このクレーターごとの接峰面図と地形図をスキャンし,Illustratorで等高線ごとにトレースした.トレースした等高線の輪は,ピクセル数を数えるため塗りつぶした.このデータをPhotoshopで開き,等高線毎にピクセル数を数えた.図1を見てみると,接峰面(B)から現地形(A)のピクセル数を引いた数(C)が,侵食割合ということになり, パンチボウルの200ftでは,7.4%が侵食されたことになる.
図1:接峰面図を用いた侵食割合の算出方法モデル
2.GIS(ArcView)による解析方法
DEMデータはNASA発行のSRTMを用いた.これをTIFFに変換し,ArcViewでポイントデータに変換可能なように,標高データを100倍したのち小数点以下を四捨五入したものを基本データ(1グリッド約30×30m)とした.まず,現在の地形面はこの基本データにサーフェス解析をかけて40フィート毎のコンターを作成した.このコンターと基本データのラスタからTINを作成し,5×5mグリッドのラスタに変換する事で,基本データよりもそこから作成されたコンターにより近いラスタを作成し,現在の地形面のデータとした.接峰面は,基本データのグリッドを3×3グリッド毎の領域に分け,その中の最大高度を接峰面高度とした.これによって約90×90mメッシュ内の最高標高点をそのメッシュの接峰面高度とした事になる.この接峰面高度のメッシュからコンターを作成し,現在の地形面のデータと同様にメッシュとコンターからTINを作成,5×5mグリッドのラスタに変換して接峰面のデータとした.現在の地形面データと接峰面データをそれぞれポイントデータに変換し,分析対象となる火山の範囲毎にポイントデータを切り出し,そのポイント数を,標高毎に表計算ソフトで計数した.侵食割合の算出方法は,図1のピクセル数がポイント数に変わっただけである.図2に,ArcViewで描画したダイアモンドヘッドの現地形(コンター)と接峰面(段彩)を示す.
図2:ArcViewによる現地形と接峰面
III.結果 侵食を受けていればいるほど形成年代が古いと考えるならば,接峰面のピクセル数(ポイント数)と比べて現地形面のそれはより少なくなっているタフリングほど古いと考えられる.
図3はPhotoShopとArcViewで算出した侵食割合のグラフと各タフリングの形成年代を示したグラフである.なお,本要旨ではPhotoShopで算出したデータは100m谷埋め接峰面のものを示す.形成年代が分かっているタフリングについては,PhotoShop,ArcViewで算出した侵食割合いずれも形成年代とある程度相関関係が見られた.また,ウルパウとマナナに差異が見られたが,その理由として考えられるのが,前者は形状がリングではなく半月状であり,後者はタフリング自身が火山島であるため波食の影響が大きいということが挙げられる.
図3:各タフリングの侵食割合と形成年代
IV.まとめ PhotoShopとArcViewのいずれで侵食割合を算出しても,ある程度同等の結果が得られ,接峰面図から具体的な数値による侵食割合を算出できた.これらは複雑な操作や専門技術を必要としないので,一般に普及が見込まれる.しかしながら,現段階でのArcViewで描く接峰面図は,方眼法の要素が強いため一概に谷埋め接峰面の結果とは比較はできない.試験的に方眼法(90mメッシュ)で接峰面を描いてPhotoShopで解析した結果,ダイアモンドヘッドの侵食割合は約7.9%という結果が得られており,今回の谷埋め法よりも値が近接している(図3).今後は,方眼法との解析結果の違いを検討する必要がある.
参考文献:中山大地(1998):DEMを用いた地形計測による山地の流域分類の試み-阿武隈山地を例として-.地理学評論,71A-3,p.169-186.