抄録
本研究の目的は,世界各地で生きる人々が形成する自然環境と社会との関わりを解明する新しい研究分野として「ネイチャー・アンド・ソサエティ研究」を構築することである。従来の「自然環境と社会との関わり」の研究は,社会と自然環境との関係はいかに複雑であるかを事例として描いていた。しかし本研究で構築する「ネイチャー・アンド・ソサエティ研究」は,世界各地で共通してみられる問題を普遍化し単純化することによって顕在化させることを目指すものである。そして現在,われわれが生活する地球上で生じているさまざまな問題に対して,より具体的な解決策を提示することを目指す。
今後、(1)先行研究を確認し,また批判しつつ新たな理論構築を目的とした調査を実施する「理論研究」,(2)現実世界をよりビビッドに描きだすため,特定地域や特定テーマを取り上げて可能な限り現地に密着したフィールドワークを実施する「実証研究」,そして(3)現実の社会に極めて近い位置から自然環境の変化と社会の対応を丹念に調査する「実践研究」の3本の柱を建て,有機的に関連づけて「ネイチャー・アンド・ソサエティ研究」を構築する。
その方向は次の3点である。
1)主体である住民が自然環境をどのように捉えるのか,文化というフィルターによって,同じ自然環境でも異なった意味が与えられる。そのような自然環境の認知はいかなるものか実証する。
2)「主体性」や「環境性」によって生じる文化変化と生態系変化は必ず連関的に発生する。それは社会変化もしくは自然環境変化が主要因となっている点に注目し、動態の分析とともに世界各地でその異なり方の程度を検証する。
3)自然環境の変化が社会に与えた影響,また反対に社会の対応が自然環境へ与えた影響をとくに社会の反応と対応(受容・調整・妥協・拒否)を検証する。
このような指向性をもつことによって、途上国と先進国,民族,自然系学問分野と人文社会系学問分野,理論研究と実践研究など,従来の研究では当然のように存在していたさまざまな区別を取り払ってつなぐという独創的な研究手法を提示していくことも可能である。
このような視座に立ち、わたしたちは、諸現象の起こる現場に立ってきた経験から、その問題を提案し、自然分野の研究視点と人文社会分野の研究視点と方法を融合させる試みを、それぞれの事例を紹介して論じたい。