日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P624
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ラオス山地民の植物利用と空間認識
*横山 智落合 雪野
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抄録

はじめに
 ラオスの山地民は,焼畑耕作をいとなむ農耕民であると同時に,集落周囲の自然環境から野生動物を捕獲し,また野生植物を 採集する狩猟採集民でもある。このような二つの側面をあわせもつ生業の実態を具体的に把握するための手段として,本研究で は「有用植物村落地図」を作成した。「有用植物村落地図」とは,ある村落で利用される植物についてそのすべてを対象とし, その植物が村落周辺のどのような空間的,生態的位置から得られるのか,また利用形態(自家消費か,換金用か)や種類(野生 植物か栽培植物か,分類群,生活型),利用される頻度や量,目的はどのようになっているかを,一枚の地図に表すものである 。これにより本研究では,空間認識と植物利用の両方に研究の焦点をあてることを試みる。

調査村落および研究方法
 調査村落のフエイペー村(図)は,ラオス北部ポンサリー県コア郡に位置し,住民は37世帯,41家族からなり,全員がアカ・ ニャウーを自称する人々である。
 フエイペー村の住民が現在の集落で生活を始めたのは,2003年2月のことである。この年,約50年間住んでいた山の上から移 ってきた。旧集落と新集落は徒歩20分程度の距離である。フエイペー村の周囲には,森林のあいだに焼畑耕地が点在する景観が 広がる。焼畑耕地は,主食となる陸稲や換金用のトウモロコシをおもに栽培する場となっている。また,ウシ,ブタ,ヤギ,ニ ワトリなどの家畜が飼養されている。さらに,森林とその周辺からは,後述するようにさまざまな植物が採集されるほか,げっ 歯類などの小型哺乳類や鳥類,昆虫が集められている。
 調査村周辺の「有用植物村落地図」を作成するにあたり,2005年は,多様な森林をかたよりなく歩くことができるよう,村人 が通常,集落と焼畑のあいだの移動に利用している4ルートの小道をインフォーマントと共に歩き,実際に使用したことのある 植物がみつかれば,その1)アカ・ニャウー語名,2)ラオ語名,3)用途,4)利用部位,5)採集を開始あるいは中断した時期 を聞き取った。また同時に,生育地の位置をGPSで記録し,植物のサンプルを収集した。調査終了後,GPSで取得したデータに, 植物に関する情報の属性を付し,GISデータを構築した。また,保管と同定のため,植物サンプルから腊葉標本を作成した。そ して2006年は,より多くの住民の植物利用の実践と認識を反映させた結果を得るため,村落の全43世帯を対象に各世帯から1名 ずつインフォーマントを出してもらい,9つに区分した生態環境(焼畑耕地,休閑1年目,休閑2~4年目,休閑5~6年目,休閑7 ~20年目,休閑20年以上,幹線道路沿い,小道,小川とその周辺)からどのような植物を利用しているのか聞き取った。

結果および考察
 2005年に実施した「有用植物村落地図」の作成では,134標本の生育地点を把握した。注目すべき点は,焼畑休閑地で生育す る多くの種類の植物が利用されていることである(表)。また,2006年の全住民に対する聞き取り調査の結果では,住民は生活 にかかわる植物とその生育環境との相関を熟知していることが明らかになった。すなわち,焼畑耕地から,二次林に至るまでの 植生遷移の各段階において,その生態環境から採集できる有用植物を利用していた。
 山地住民にとって,焼畑休閑地や道路のような人の手によって攪乱された環境が,有用植物の生育地として重要である。また ,特定の空間が内包する有用植物の種類や成長段階が時間と共に変化するため,彼らの生活空間の構造を把握するには特定の時 間と場所だけを考えるのではなく,生業と空間の関係を動態的に理解する必要がある。

本研究は,総合地球環境学研究所「アジア・熱帯モンスーン地域における地域生態史の統合的研究」プロジェクトの調査成果の 一部である。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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