抄録
I 研究目的
気候シフト以降における亜熱帯高圧帯領域の拡大は,ジェット気流の緯度的・経度的位置を変容させるのみならず,日本列島を通過する温帯低気圧の移動経路にも影響を及ぼしていることが報告されている(大和田,2005)。このような大気循環場の変動は,子午面循環による熱交換を盛んにし,傾圧不安定波を助長させることとなる。その結果,温帯低気圧が台風並みに発達し,被害をもたらすことが相次いだ(中川他,2005)。このような低気圧の物理的なメカニズムに関しては,多くの研究成果が報告されているが(Yoshida and Asuma, 2004;Takayabu,1991),地球温暖化による大気循環場の変動に伴うものであるかどうかを知ることが重要である。そこで筆者ら(2006)は,異常発達する温帯低気圧が2000年以降顕著な増加傾向にあることを確認し,その原因が日本海低気圧と南岸低気圧が合流する2つ玉低気圧型の増加によることを明らかにした。そこで本研究は,中心気圧が980hPa以下に異常発達した温帯低気圧の特徴を上層気圧場から明らかにしようとするものである。
II 資料および解析方法
解析方法は,1971~2005年の春季(2~4月)および秋季(9~11月)における地上天気図から日本列島を通過した温帯低気圧の中心気圧が980hPa以下に発達した事例を選出した。これらの低気圧を日本海低気圧型,南岸低気圧型,および2つ玉低気圧型に分類し,それぞれの発達過程の特徴をNCEP/NCARの再解析データを使用して上層気圧場,水平風分布,および相対渦度分布から検討した。
III 結 果
図1は,日本海低気圧が968hPaに発達した時における500hPa面の水平風ベクトルと水平風速分布を表したものである。この図から,寒帯前線ジェット気流は,50N・105Eから37N・130Eにかけて吹走して日本海上空で42m/sとなっている。このとき亜熱帯ジェット気流は25N付近を東西に吹走している。これに対して南岸低気圧型(図2)は,54m/s以上の強風域が日本列島の南の海上に位置し,25N付近を吹走する亜熱帯ジェット気流が55Nから南下する寒帯前線ジェット気流と合流して中心気圧が960hPaに発達した。さらに,952hPaまで発達した2つ玉低気圧型は,寒帯前線ジェット気流の強風軸が40N・100Eと50N・120Eにあって,亜熱帯ジェット気流を含めた3つのジェット気流が日本列島の東の海上で合流し,風速も60m/s以上と最も強くなることが判明した(図3)。
