日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 718
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日本における夏季の強雨・弱雨傾向に関する長期変化について
地域性と数十年スケール変動
*高橋 日出男
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抄録

◆はじめに
 近年,北半球中高緯度や日本各地における強雨の頻発が指摘されており(IPCC 2001, Fujibe et al. 2005, 気象庁 2005),多くの地球温暖化時予測シミュレーション結果は,日本付近における強い(弱い)降水の増加(減少)傾向や梅雨明けの遅れを示している(Yoshizaki et al. 2005, Kimoto et al. 2005, Kusunoki et al. 2006など).本報告では,国内における夏季(6~9月)の降水特性(強雨・弱雨傾向)に関する長期変化を,特に地域性と時代性の観点から日降水量を基に検討することを目的とする.
◆資料
 用いた資料は,「全国51地点の日降水量ファイル」(CD-ROM)で,そこに収録されている1901~2004年(104年間)の6~9月を対象とした.このデータには品質に関するリマークが付いており,本解析では資料不足値(値以上)も使用した.ただし,値なし(欠測)と資料不足値の日数が併せて10日以上ある6地点は解析に使用しなかった.また,1968年より降水量の最小単位が0.1mmから0.5mmに変更されていることについては,1968年以前のデータの小数点以下第一位を単純に0.5mm単位に切り捨てて(0~4→0,5~9→5),分解能を落として解析を行った.各地点年々の強雨・弱雨傾向の評価にあたり,高橋(2003)に準じた日降水量の階級別積算値に基づく指標(RCIRainfall Characteristic Index)を求めた.すなわち,地点ごとに104年間の全降水量に占める階級別日降水量積算値が等分になる5階級を設定し,降水量の小さい下位階級から上位階級に向かってカテゴリとする.年ごとに各カテゴリに属する日降水量積算値を求め,カテゴリに加重した上位階級と下位階級との差[2・(y)+VI(y)-(II(y)+2・(y))]を規準化してy年におけるRCI(y)とした(強雨傾向:正値,弱雨傾向:負値).
◆解析結果
 まず,クラスタ分析により,104年間におけるRCI時系列の類似性から国内を6地域に区分した(図1).地域で平均したRCI時系列の年次に対する相関を求めたところ,中四国・南西諸島(E)と北西九州(F),北海道(A)では経年的な強雨傾向の進行が認められる(5%水準で有意)が,東北・関東(B),中部(C),近畿(D)では不明瞭であった.一方で,RCIには地域によって位相を異にする数十年スケールの増減が認められ,RCIの空間分布に基づいて年を分類することにより,地域毎に強雨傾向の現れやすい時代の存在が指摘できる(図2).1970年代末以降の近年は,北海道(A)と東北・関東(B),北西九州(E)各地域の数十年スケール変動における強雨頻発時期が重なっており,これらの地域で合算すると近年では1970年以前の2倍近い頻度で強雨傾向の年が現れている.また,地域別に旬毎の強雨(カテゴリの降水)発現頻度を1970年代末の前と後で比較すると,1970年代末以降では東北・関東(B)や北西九州(F)では6月前半に減少し8月に増加しており,一方北海道(A)では8月に減少し9月に増加している.ただし,近畿(D)については,強雨傾向年の長期変化や1970年代末の前後における強雨発現季節の変化が他地域と異なっている.強雨傾向の長期変化の解明には,数十年スケール変動を強雨発現季節の変化や地域性と併せて明らかにする必要があろう.

図1(左) RCI時系列の類似性による地域区分
図2(右) 期間をずらしながら求めた各typeの11年間あたり出現回数
type a, b, d, f, nは,RCIの空間分布に基づいて分類した年のタイプ[type a:北海道(A)強雨傾向年(16年),type b:東北・関東(B)強雨傾向年(17年),type d:近畿(D)強雨傾向年(21年),type f:北西九州(F)強雨傾向年(11年),type n:全国弱雨傾向年(39年)]
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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