日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 310
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神奈川県の民間戸建住宅における年齢構成の差異
*伊藤 慎悟
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抄録


1.はじめに
 大都市郊外地域では、居住者の年齢構成に偏りがみられ、居住者の加齢による急激な高齢化がすでに指摘されている(厚生省2000)。
 また、郊外地域における居住者の年齢構成や高齢化の過程で、住宅地ごとに差異が生じており、従来の研究ではその要因として住宅地の開発時期、住宅種別といったものが挙げられてきた。とくに住宅種別による高齢化の比較は香川(2001;06)をはじめ、十分な研究成果が上げられ、そのなかで戸建住宅は入居当初から居住者の年齢が比較的高く、定住化による加齢が進みやすいといわれている。
 本研究では、このような既存の研究成果を踏まえ、神奈川県の人口急増期である1960年代後半に、最も多く供給された民間の戸建(持ち家)住宅のみを取りあげ、年齢構成や高齢化の過程で差異がみられるかどうかを議論することとした。

2.研究対象地域
 本研究は、1960年代を中心に人口急増を経験し、大量の住宅供給を行った神奈川県を対象にした。
 分析対象地区の選定にあたっては、『住宅団地立地調査結果報告書 平成14年』をもとに、このなかで80区画を超える民間開発主体による戸建住宅団地を68地区選定した。
 開発年次は、30年以上が経過しているもので、上記資料における開発着工年が1966年から68年、完成年度が1967年から70年と記載されている住宅団地を対象としている。

3.資料
 対象地区の人口動態を時系列で見るうえで、国勢調査の最小分析単位である国勢調査区(基本単位区)別集計が必要であり、ここで用いた(1975、85、2000年)。本研究では、この調査区を団地の範囲と対応させ、かつ以降の調査区範囲の設定変更に際しても、比較検討可能な団地のみを対象として取り上げており、ミクロスケールでの時系列分析が可能である。
 また、人口以外の要素に関しては、昭和50年、55年国勢調査の調査区別集計から、産業別人口構成、職業別人口構成、最終学歴、通勤・通学地、居住面積に関する指標を設定した。

4.1975年における年齢構成の差異
 本発表では、対象として取りあげた戸建住宅全体の高齢化の特徴を示したうえで、これらが入居当初から同じような年齢構成をしているのかを考察し、示す予定である。
 現時点で明らかになっていることとして、同等性のχ2検定より、1975年の各地区の年齢構成は同じでないことが判明したことである。本研究では、そのような結果を踏まえ、同時期、同一種の住宅団地を、5歳階級別によって四つの地区群に類型化し(ウォード法クラスター分析による)、各地区群の特徴について考察を加えた。
 その結果、年齢構成によって区分した各地区群は、地域的差異や居住者・居住地にも差異がみられた。一般的に、戸建持ち家住宅は、公営アパートといった賃貸住宅に比べ、入居当初の年齢が高く、社会的地位の高い世帯主が購入するものといわれているが、そのなかでも居住者の社会的地位に差異があることが判明した。

5.1985・2000年における高齢化状況
 ここでは、1975年に区分した4地区群が、1985年・2000年の時点でどの程度高齢化が進んでいるか、地区群の差異は存在するかについて考察した。
 1985年までは、当初より特化していた年齢層が大きく変わることなく加齢するという傾向が見出された。これは、伊藤(2006)で検証した住宅種別による高齢化の議論とは異なる結果となった。
 2000年は、特に第2(子)世代の転出が顕著で、第1(親)世代の偏りばかりが強調される年齢構成となったが、高齢化の進展で各地区群の明瞭な差はみられなかった。今回取りあげた戸建住宅団地は、1975年にみられた年齢構成の差異が大きく変化することなく2000年に至ったと解釈できる。

文献
伊藤慎悟2006.横浜市における住宅団地の人口高齢化と年齢構成の変遷.地理学評論79:97-110.
香川貴志2001.ニュータウンの高齢化―シルバータウン化する千里ニュータウン―.吉越昭久編『人間活動と環境変化』古今書院:139-154.
香川貴志2006.人口減少と大都市社会―千里ニュータウンの公営住宅にみる人口減少と高齢化.統計57:2-9.
厚生省2000.『厚生白書 平成12年版』ぎょうせい.

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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