抄録
近年世界中の多くの地域で異常高温・強雨の頻度が変化しており,また二酸化炭素の増加に伴い異常高温や強雨が増加することがモデル実験により示されている.本研究では日本における気象官署の100年間の降水量データについて季節ごとに総降水量・日降水変動を示す指数及び降水日数の長期トレンドを算出し,要素間の比較を行った.
降水データは,日本の気象官署51地点における1901-2000年の日降水量データを使用した.解析は季節ごとに行い,季節合計降水量・最大日降水量(季節別)・50パーセンタイル・75パーセンタイル・90パーセンタイル・降水日数・降水強度の7要素について100年間のトレンドを算出した.トレンドの計算には,Mann-Kendall rank statisticを使用した.
春季においては,季節最大日降水量と90パーセンタイルにおいて日本海側の地点で有意な上昇傾向が見られ,この地域で強い降水が上昇傾向であることが分かる(第1図).また強い降水が増加している原因は,90パーセンタイル以上の降水において降水強度が強まっていることにあった.夏季は西日本の日本海側で強い降水が増加していた.この原因は春季と同様に降水強度の増加によるものであったが,春季とは異なり夏季では90パーセンタイル以下の降水や降水強度に減少が見られないため季節合計降水量においても西日本の日本海側で増加傾向であった.
秋季の季節合計降水量では,関東地方で有意な減少を示す地点が見られた. この季節合計降水量減少の原因は,50パーセンタイル及び90パーセンタイルにおける降水減少が原因であると考えられる.50パーセンタイル以下の降水日数・強度はほぼ全国的に減少傾向であるが,90パーセンタイル降水及び90パーセンタイル以上の降水強度では関東地方で減少している.一方,冬季には北海道において季節合計降水量が増加し,東北から中部地方にかけて減少している(第2図).北海道における増加は,50パーセンタイル以下の降水日数の増加が原因であり,また東北から中部にかけて季節合計降水量が減少している理由は,50パーセンタイル以下の降水と90パーセンタイル以上の降水の減少が原因である.東北から中部にかけて50パーセンタイル以下と90パーセンタイル以上の降水において,降水強度・降水日数ともに有意な減少を示している.